昨年の木村拓哉出演ドラマ『PRICELESS~あるわけねえだろ、んなもん~』(フジテレビ系)は、舞台が魔法瓶メーカーだった。究極の魔法瓶をつくる物語が繰り広げられたわけだが、実は現実の世界でも魔法瓶は今をときめく話題の商品となっている。スープを保温して持ち歩ける「スープ専用魔法瓶」(スープジャー)が秘かなブームなのだ。
東急ハンズ渋谷店では、3階にスープ専用魔法瓶特設コーナーを設置。6社30種類の商品が陳列されている。OLを中心とした若い女性に人気で、昨年12月の売上は前年比約160%と非常に好調だ。
スープ専用魔法瓶人気の高まりにはいくつかの要因がある。1つはランチスープの定着。スープストックトーキョーが「食べるスープ」の専門店を10年以上前に始め、昼食にスープというスタイルが日本でも一定の支持を得られるようになった。
エコ意識の向上などから、魔法瓶などの“マイボトル”に自分の好きな飲み物を入れて持ち運ぶ人が増えてきたことも関係しているだろう。マイボトルは珍しくなく、むしろ今どきの生活スタイルとして受け止められるようになってきている。
加えて、長引く不況による節約志向も影響している。昼食は外食やコンビニではなく、弁当を持参して出費をなるべく抑えたいという人は確実に増加している。スープに関しても同様で、スープ専用魔法瓶は節約派の必須アイテムとなっているのだ。
こうしたマーケットニーズを察知し、2009年9月に国内でいち早くスープ専用魔法瓶を発売したのがサーモスである。「北米エリアでは10年以上前からスープジャーを販売し、高い実績があった。それを日本市場向けに改良して発売した」と同社広報部は話す。発売当初から売上は好調。現在では、同社製の「真空断熱フードコンテナー」は出荷数量が昨年9~11月で前年比約300%と大ヒットを記録している。
サーモスのヒットを横目に、タイガー魔法瓶が2011年、象印マホービンが2012年と、大手魔法瓶メーカーも相次いで参入。スープ専用魔法瓶をめぐる商戦は熱いバトルの様相だ。
ところで、スープ専用魔法瓶が東急ハンズ渋谷店に見られるように、比較的若い層に好評となっている背景には別の見方もある。キーワードは“時短”だ。スープ専用魔法瓶を使ったレシピ本を発刊する辰巳出版の編集者・安藤賛氏は、次のように分析する。
「スープ専用魔法瓶は『保温調理』ができる。たとえばサーモスの真空断熱フードコンテナーに洗った米を入れ、フリーズドライのスープを入れて熱湯を注ぎ、フタをしてオフィスに持っていく。すると昼時にはリゾットになっている。手間暇かけずに簡単に調理できてしまうことも人気の秘訣」
ユーザーは女性に留まらない。近年オフィスで増えている「弁当男子」の中にもスープ専用魔法瓶愛用者が現れている。その1人である弁当男子歴5年、大手企画会社勤務の田野倉正規氏(30)はこう話す。
「スープを持参し始めたのは約2年前。温かいスープは昼休みにほっと一息付けて気分転換になる。それに、夕飯を作つくるときに一緒に簡単に仕込めるし、野菜をたくさん取れて健康的。今では週2~3回はスープ専用魔法瓶に入れて持っていく」
定番メニューはトマトのチキン煮込み、ポトフ、オニオンスープだそうだ。インスタントスープ市場は、ここ数年拡大傾向にある。また、スープレシピ本では「朝に効くスープ 夜に効くスープ」(浜内千波著)が異例の14刷13万部のベストセラーになるなど、スープ関連の話題には事欠かないご時世となっている。スープ専用魔法瓶にとっては追い風となり、一過性のブームに終わらず、今後も普及が期待できそうだ。
(大来 俊/5時から作家塾(R))