3.11以降の防災意識の高まりは、食料の備蓄にも及んでいる。今や会社のロッカーやデスクの引き出しに買い置きしたお菓子を入れておくことも、普通になった。そんななか、究極の備蓄食料とも言える「食べられる食器」に注目してみた。
商品名は「Edible Tableware」。ライスデザイン株式会社の商品紹介によれば、「使い捨て」ではなく「使い食べ」の発想から生まれた、乾パンでできたボウル状の食器とのこと。発売開始は2010年で消費期限は45日というから、確かに防災用備蓄というよりエコロジーを念頭に置いた商品である。
「食べられる○○」の存在自体、珍しいものではない。チョコレートやキャンディでできた下着などの冗談グッズを、思い浮かべる人も多いだろう。
食器については、居酒屋でお馴染みの「イカ徳利」がある。これなどは「古典的な食べられる食器」と言える。最近では、でんぶん製のつまようじ、寒天製のコップ、野菜でできた皿なども紹介されており、ラインナップが増えている。
これらは、アウトドアでの使用を考えると、ゴミと帰路の荷物を減らす意味では十分に実用性が高いと言える。また公的な試みとしては、りんごの繊維でできた食器が長野オリンピックの選手村食堂で使用されていたとの記録もある(おそらく食されてはいない)。
エコロジーがある程度浸透しても、これらの商品はさほど一般的な存在にはなっていない。コスト、価格、保存性など様々な要因が考えられるが、ほとんどの消費者が「商品の存在を知らない」「必要性を感じない」のが大きな理由だろう。
それはエコロジーが(本来そうではないのだが)、切実な問題とは受け取られていなかったせいかもしれない。
ただし今後となると話も変わってくる。2012年現在では、食べられる食器の話題に接したとき、アウトドアでの使用よりも災害時、水の使えない状況下での利便を思い浮かべる向きも多いはずだ。
消費期限の問題さえクリアされれば、購入を考える人もいるだろう。実際ライスデザイン社も備蓄食料としての同商品のあり方を視野に入れているという。
現時点での「食べられる○○」群はバラエティに乏しく、商品によっては実用性にも欠ける。だが防災面から一定の需要が生まれてしまったからには、食べられる食器に限らず、災害時に本来の目的以外に使えるあれこれが、数多く登場するのではないか。
持っていて安心なだけではなく、多目的なので商品としての面白みもある。購入欲も刺激されるはずだ。
(工藤 渉/5時から作家塾(R))