地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念した著者ヘンリー・ジーへのオンラインインタビューの3回目。前回に続き、世界的科学雑誌「ネイチャー」のシニア・エディターとして最前線の科学の知を届けている著者に、地球生物史の面白さについて、本書の執筆の意図について、本書の訳者でもあるサイエンス作家竹内薫氏を聞き手に、語ってもらった。(取材、構成/竹内薫)

世界的科学作家が大切にしている 人生を変える「口ぐせ」Photo: Adobe Stock

ベストセラーには2種類ある

ーー『超圧縮 地球生物全史』がイギリスで出版された後、メディアや読者からの反応はどうでしたか?

ヘンリー・ジー:とても良い反応です。主要な新聞でとても良い評価を得て、かなりの部数が売れました。

 しかし、もうひとつ驚いたのは、日本語だけでなく、さまざまな言語で出版されていることです。

 私の本棚には、6種類の外国語版があります。日本語版、ルーマニア語、インドネシア語、トルコ語、ギリシャ語、その他の言語にも翻訳されています。英語以外の外国語版は、現在19種類が準備中なんです。

ーーベストセラーには2種類あると思います。一つの言語だけで100万部売れるような本と、20ヵ国で翻訳されて、各国で5万部ずつ売れるような本と。

超圧縮 地球生物全史』は、まさに後者のタイプですね。つまり、単一の文化内の流行現象ではなく、世界中の本好きの人々が手にとってくれる……普遍性を持った本とでもいいましょうか。

本を書きたい人へのアドバイス

ヘンリー・ジー:ありがとうございます。この本には、私が書いた他のどんな本よりも、人を惹きつける何かがあるようです。

 一夜にしてセンセーションを巻き起こすには、何年も何年も無名で仕事をする必要がある、というのが私の口癖です。

 この30年間、本を書くことは一種の旅だったのです。私は科学者であり、科学雑誌で仕事をしているため、かなり高度な科学的方法で書く傾向があります。

 でも、この本では、「さあ、ヘンリー、自分らしく。ストーリーを語ればいいんだ。技術的なことは忘れて、ぜんぶ脚注に入れてくれ」と自分に言って聞かせました。

 60歳を超えたからか、人の目も気にならなくなりましたね。

 本を書きたい人たちからアドバイスを求められると、「まず、話すように書け。物書きじみた、特別な声を出す必要はない。ただ書き留め、口述筆記し、話すように書け」と答えます。

 でも、基本的には会話みたいなものなのです。とにかく私は、複雑で科学的な話になることを避けて、楽しく読んでもらえるような語りかけるスタイルで書くことを心がけています。

ーー私も62歳なので、おっしゃっていることがよくわかる気がします。私もサイエンス作家稼業は30年なので、ほとんどあなたと同じなのですが、これまで自著で売れた本は、口述筆記に手を入れたり、あるいは、音読を意識して書いた本、そして、翻訳も同じですね。

 流れるような文章のリズムを意識しないと、読者は途中で読むのをやめてしまいます。まあ、私の場合は物理学のテーマが多いので、数式が出てきた時点で読者が半減してしまいますが(笑)。いずれにしろ、会話のように書く、というのは本当に大切ですよね。

世界的科学作家が大切にしている 人生を変える「口ぐせ」ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。
Photo by John Gilbey

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉への著者インタビューをまとめたものです)