2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの侵攻から間もなく1年がたつ。侵攻当初のロシアは短期で終結すると予想していたと思われるが、その思惑は大きく外れ、約1年たった今も、激しい攻防が続いている。長期化が見込まれる上、ロシア側の明確な勝利が見えにくいにもかかわらず、なぜロシアはいまだに侵攻を続けるのか。ソ連時代のアフガン侵攻時との比較から考えたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
数字が示す
2つの戦争の真実
ソ連のアフガン侵攻では1万4000人の戦死者を出して1989年に撤退した。ロシアのウクライナ侵攻では、22年だけで2万人前後の戦死者を出しているとみられるが、撤退の兆しはない。なぜ、ロシアはソ連のように諦めないのだろうか。プーチンはソ連の体制以上の、冷酷で強力な独裁体制を築いたのだろうか。
まず、事実を確認することから始めたい。ソ連のアフガン戦争の戦死者数についてはかなり確実な数字がある。79年から89年の戦争で、ソ連の軍や情報機関を併せて1万4453人が死亡し、5万7537人が負傷した。このような詳細な数字が分かったのは、ゴルバチョフ時代のグラスノスチ(情報公開)とソ連崩壊で、多くの機密文書が公開されたからだ(それでも2万6000人が戦死したという異説はある)。
もちろん、アフガン側の犠牲は莫大である。アフガン戦闘員はおよそ9万人が死亡、市民の死傷者を含めると100万人、総人口の7~9%が死亡したと推定され、700万人の難民が発生し、周辺諸国に逃れた(これらの数字は、Afgansko-sovjetski rat Wikipedia〈セルビア・クロアチア版Wikipedia。自動翻訳した英語版によった〉)。
ソ連のアフガン戦争は、79年、その前年に成立した共産主義政権を支援するために始まり、ブレジネフ政権、アンドロポフ政権、チェルネンコ政権、ゴルバチョフ政権と4代の政権で続き、ゴルバチョフが撤退を決意した後、89年に終わった。侵略者であるソ連は、アフガンの犠牲には何ら関心を持たないとしても、自国の兵の犠牲は考慮するしかなかったということだろう。ソ連は、1万4000人の兵士の犠牲で無益な戦争をやめたのだ。
一方、22年からのウクライナ戦争ではどうだろうか。