原田 泰
国民民主党が求めている所得税の基礎控除などを103万円から178万円に引き上げる所得税減税が話題である。財務省の反対により、基礎控除引き上げが国民の税引き後所得増、つまり手取りを増やすか、政府の税収の減収かという議論に集中してしまっているようだ。しかし、基礎控除引き上げの本来の目的は、働きたい人が働くと損する制度を改めることだ。このことを説明したい。

石破茂政権は、法人税引き上げ、金融所得課税など、ビジネスに友好的でない、いわば「反ビジネス」「嫌ビジネス」の気味がある。首相に就任後、これらの主張を封印してしまったようだが、気質は残っている。企業の内部留保に課税せよとか法人税に累進課税を導入せよという言論もある。しかし、内部留保とは、現金として残っているものではなく、すでに設備投資などに使っているものである。企業の保有する現金などの金融資産なら課税できるかもしれないが、このような余裕資金がなければ、リーマンショックやコロナショックのような時には一挙に倒産企業が増えてしまうだろう。

「石破ノミクス」で日本経済は大丈夫か?出馬表明の石破元幹事長にエコノミストが疑念
自民党の総裁選は多彩な顔ぶれが出馬して盛り上がっている。マクロ経済政策を明確に述べている候補者は少ないが、石破茂元自民党幹事長が、『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社)という著書を出版している。発刊が2024年8月7日だから、まさに「わが政策」を述べたものと理解して良いだろう。ここには、自治相も務めた父・二朗氏の思い出、田中角栄元首相との交流など、興味深いエピソードがつづられ大変面白い。だが、マクロ経済政策の考えについては疑問視せざるを得ない。石破氏の考えの問題点を指摘したい。

筆者は2月の記事「『中小企業は賃金が低い』は本当か?国際比較でわかった日本企業の“真の問題”」(https://diamond.jp/articles/-/338719)において、日本の大企業と中小企業の賃金格差は国際的に見て小さいと書いた。OECDの統計(OECDの定義では、従業員300人未満が中小企業、300人以上が大企業)によれば、賃金給与の大企業に対する中小企業の比率は、ドイツ、イタリア、韓国では55%程度、イギリスでは62%、スイスでは71%となっている。OECDの統計には日本のデータがないが、中小企業庁「中小企業白書(2023年版)」では、大企業に対する中小企業の給与比率は85.0%である。これは厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から推計したものであるが、国税庁「民間給与実態統計調査結果」(2022年)でも85.8%となる。すなわち、さまざまな統計をチェックしても、日本の大企業と中小企業の給与格差は国際的に小さい。今回は、この格差が、これまでどのように推移してきたか、そして、その意味は何かについて考えてみたい。

金利を上げれば円安が止まる?→むしろ円安リスクが高まるワケ【エコノミストが解説】
「円安になるのは日本の金利が低くてアメリカの金利が高いからだ。だから、日銀は円安を止めるために金利を上げるべきだ」と思っている人は多いだろう。しかし、金利を上げると円安になる可能性もある。その理由を解説する。

財務省が煽る「ワニの口」は幻想だ!財政赤字の真実を元日銀審議委員が分析
日本の財政赤字はひどく、それゆえに税収を上げなければならない、という言説はよく聞かれる。しかし、その理屈は本当なのか。経済学者が真偽を解説する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

人手不足が成長につながる「日本経済復活のシナリオ」、成否を分ける条件とは?
日本の労働者は生産性が低いとよく言われる。生産性の向上のためには実は人手不足である状況が最適だという。その理由を解説する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

日本の国力減退は「人口問題」のせいじゃない!政治家や役人が口にしない本当の原因
日本人の賃金はなぜ上がらないのか。それは、人口減少よりも一人当たりのGDPが上がらないことに本質があるという。経済低迷にあえぐ日本の問題点を、アジア諸国と比較して分析する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

日本経済の停滞についてはさまざまな議論があるが、単純なことを忘れている。それは、トラン・ヴァン・トゥ早稲田大学名誉教授が指摘したことだが、日本は投資が不足していたということだ。

日本は財政赤字で大変なことになると言われているが、実は日本の財政赤字は縮小している。このことは何度も書いたのだが、残念ながらこの事実を認めて下さる方は少ない(例えば、「日本の財政は本当に危機的なのか?『ワニの口』財政理論のカラクリとは」https://diamond.jp/articles/-/293761)。加えて、将来は大変なことになるという方も多い。そこで将来の財政状況がどうなるかを予測してみたい。財政状況の指標としては政府債務対GDP比を用いる。なお、ここでの債務は、通常使われる粗債務ではなく、粗債務から政府の保有する金融資産を差し引いた純債務を用いている。後述するように、金利の動きが重要なので、政府が支払う金利と受け取る金利を相殺することが必要だからだ。なお、2023年の政府粗債務残高の対GDP比は260.1%、政府純債務残高の対GDP比は161.5%である。

「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても、経済は成長しない」という議論がある。だから、低金利政策はむしろ低成長をもたらすか、そうでなくても成長を回復させない、という意見である。だから、金利を高くして、高い金利を払える企業だけにすれば、経済は良くなるという。プリンストン大学の清滝信宏教授は、「実質利子率がマイナスでなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」と書いている(『補助金・金融緩和頼み脱却を』日本経済新聞2024年3月4日)。しかし、本当に、日本の企業は1%以下の金利でなければ採算の取れないような非効率な投資をしているのだろうか。これについてはすでに本欄『「低金利政策が低成長を招いた」説は本当か、データで見る“真実”とは?』でも書いたのだが、前回は経済学者的に書きすぎてしまったので、同じことをもっと簡単に書いてみた。

日本の財政赤字が大きいことは誰でも知っているが、なぜそうなってしまったのかについては、皆が正しいと認める答えはない。私の考えは、以前に書いた『アベノミクスの代名詞「大胆な金融緩和」は日本経済に何を遺したか』にあるが、このことを国際比較で考えてみよう。

「セクシー田中さん」の日テレだけじゃない!「不誠実なエリート」がのさばる組織の病理
「セクシー田中さん」を巡る議論が続いている。優れた漫画家の自殺に人々の注目が集まるのは当然であるが、私は、その議論が的外れのような気がしてならない。

日本の中小企業の生産性は低く、それ故利益が上がらず、賃金が低いことが問題だとされているようである。しかし、本当の問題は何かについて、国際比較で明らかにしていきたい。

大谷翔平選手のドジャース1000億円(約7億ドル)契約がマスコミをにぎわせている。なぜ大騒ぎになっているかについて、スポーツの価値ということを除外して、4つの視点から考えた。

岸田内閣の支持率が急落している。毎日新聞の2023年11月世論調査によると、支持率は21%、不支持率は74%になっている。10月から比べると、支持率は4.5%ポイントの低下、不支持率は6%ポイントの増加である。もちろん、支持率の低下と不支持率の上昇が大きな話題になっているのだが、私は「分からない、無回答」の人に注目したい。

今後、2050年にかけて国内の農業人口が8割も減少し、生産が激減し、必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれないという議論がある(『農家が8割減る日 「主食イモ」覚悟ある?』日本経済新聞2023年9月18日)。この記事は、かなりのところで、平野勝也・武川翼「2050年の国内農業生産を半減させないために」(三菱総合研究所マンスリーレビュー2022年12月号、2022.12.1)に依拠しており、これによると2020年から50年にかけて、農家経営体数は84%減少し、農業生産額は52%減少するという。しかし、私はこんなことにはならないと思う。その理由を説明しよう。

福島第一原発からの処理水の放出について中国が強硬に反対している。これまでなら、日本でも多少の反対がもっとあったはずだと私は思うのだが、反対運動は低調であるように思われる。私の考えでは、中国があまりに強硬なので、反対すると彼らの味方というイメージが付いて反対しにくくなっているのではないかと思う。しかし、トリチウム排出を弁護する側も、少し弱いのではないかと私は思う。専門家の意見、他国の事例、過去の事例を十分に生かしていないのではないだろうか。

財政当局と財政学者は「財政赤字は経済成長を妨げる」と盛んに唱えている。だが、それは本当だろうか。3つのデータで解説する。

日本の給料が上がらない。言い換えれば、1人当たりGDPが上がらない。これについてはさまざまな議論がなされてきたが、その理由は、資本ストックが足りないからである。諸外国との比較データを用いて解説する。
