小児がんが希少がんゆえであるがために起きる、深刻な問題

 成人のがんと小児がんの違いは他にもある。一つは年間2000~2500人という患者の少なさ、すなわち希少がん(人口10万人あたり6例未満の「まれ」な「がん」、数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他に比べて大きいがん種)であることだ。もう一つは、種類の多さ。

「小児がんの約4割は白血病、次いで多いのが脳腫瘍、リンパ腫ですが、白血病や脳腫瘍にもさまざまなタイプがあります。また、そのほかのがんにもいろいろな種類があり、いずれも患者は少数です」

 患者数が少ないと、治療薬の安全性やエビデンスを確かめる治験もなかなか行えない。たとえば白血病は年間800例ぐらいあるので、まだ比較的、臨床研究もやりやすいが、高リスク群の神経芽腫は年間60~80例ぐらいしかないため、どの薬が効くのかを調べようにも実証までたどり着けない。

 成人以上に厳しいドラッグラグ(注:海外ではすでに承認されている薬が、日本国内で薬事承認を得るまでに長い年月を要すること)の問題にも、患者数の少なさが影響している。

「今、分子標的薬がいろいろとできていますが、日本にはあまり入ってこないという問題があります。というのも、分子標的薬の多くは、海外のベンチャー企業で創られています。大企業が開発した薬は、割と短期間の遅れで入ってきますが、ベンチャーの薬は難しい。日本側に受け皿になる企業が少ないので、どうしてもドラッグラグあるいはドラッグロスができてしまうのです」

 国内で販売するには治験をして薬事承認を得なければならないが、協力する患者の数がある程度ないと難しい。かつかなりの費用がかかるので、かけるだけの市場規模がない現状では十分な利益が見込めず、ベンチャー参入の障壁になっている。

「たとえば神経芽腫(注:神経の細胞にできるがん)の薬でも、海外では30年前から使われて、効果や安全性もある程度認められているのに、日本には入ってきていない薬があります。海外では普通に使えているのに日本では使えない薬がたくさんあります。医師としては非常に悔しい思いです。

 こうしたラグを埋めるには、治験が行える体制整備をしっかりした上で、希少がんに対する新薬を輸入販売する企業には国がインセンティブをつけるなどの仕組みにしないと難しいのではないでしょうか」