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ネットバンキングが普及し、また暗号資産などを所有する人も増えてきた。その所有者が亡くなると、デジタル資産は「デジタル遺産」になる。生前、本人もデジタル資産と意識せずに所有していたものが、相続発生後にトラブルとなるケースも増えている。(税理士、岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)

「マイナスのデジタル遺産」にも要注意!

 遺産には、「プラスの遺産」と「マイナスの遺産」がある。一般的に、プラスの遺産とは預貯金など経済的価値のある財産で、マイナスの遺産とは借金やローンなどを指す。「デジタル遺産」にもマイナスの遺産はあり、ネット証券や暗号資産などは、取引相場によってはマイナスの遺産となる。

 例えば、FX(外国為替証拠金取引)には追加証拠金制度というものがある。期限が過ぎても追証金を入金せずにいると強制決済され、証拠金はマイナスとなり、マイナス分は証券会社へのいわば借金となる。証券会社は借金回収のため督促を行い、回収できないと最悪の場合、訴訟を起こす。

 デジタル遺産の相続では、相続人がその存在自体を知らなかったり、パスワードがわからないためにデジタル遺産を把握できなかったりという問題がしばしば生じる。FXの追証金の例で言えば、ある日突然、督促や訴訟の知らせが届いて、相続人が仰天する事態にもなりかねない。

 相続税の申告後にデジタル資産が見つかれば、相続手続きを最初からやり直さねばならない可能性もある。また、借金などの債務は相続財産から差し引けるが、デジタル遺産の借金を把握していない相続人は相続税を払い過ぎることにもなり得る。

 逆に、マイナスの遺産がプラスの遺産を上回る場合、相続人は自らの相続権を手放す「相続放棄」や、プラスの遺産の範囲でマイナスの遺産を引き継ぐ「限定承認」を選べる。しかし、その意思表示の期限は相続発生から3カ月。マイナスの遺産を知らなかったため、意思表示せずに相続すると、思わぬ債務を相続人が背負うことにもなってしまう。

 では、さすがに故人も、ネット証券などの存在やパスワードは、生前、家族に伝えていたとしよう。しかし、本人がそれと気づきにくいデジタル資産もある。例えば、ポイントプログラムの残高、動画や音楽配信のサブスクリプション・サービス、アプリの定期課金などもデジタル資産の一部なのだ。