エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意フランスの歴史家エマニュエル・トッド 写真提供:朝日新聞社

家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。彼の分析では、現在起きている戦争の背景に「グローバル化」という私たちのかつての夢があると言います。その真意を、最新刊『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)で語った民主主義の未来予想図から一部を抜粋・再編して大公開します。

「グローバル化」という夢のあと

――中国と米国の対立は深刻化し、両国ともに経済の相互依存を政治的に切り離すデカップリングを進める機運があります。以前、しきりに言われていた「世界がボーダーレスとなり、主権国家は重要性を失う」という言説はどうなったのでしょう。グローバル化は終わったのでしょうか。グローバル化の夢は潰えたのでしょうか。

 グローバル化の夢は、死にかけています。

 もはや人々はグローバル化を天国のようには考えていません。人々はそれが社会にとてつもない格差を生み出したことを知ってしまったからです。しかし一方で、先進国と途上国との間に一定の新たな平等を作り出しました。

 私は2つ指摘しておきたい。まず、グローバル化がもたらした現実です。世界の労働者階級の多くは中国にいます。今、世界の労働者階級のおそらく25%は中国にいます。グローバル化の中で国際分業が進み、世界の生産を担っているのは、中国の人々なのです。

 もう一つの大きな部分はインドなどです。欧米や日本といった先進国の経済は、工業(に伴う生産活動)から脱却し、サービスや研究などに集中しています。この構造から抜け出せないでしょう。先進国の国民は労働者として生産の現場へ戻れるでしょうか。