世界銀行の主任エコノミストも務め、日本などの先進国中間層の成長率の鈍化を見破り、的確に分析したブランコ・ミラノビッチ氏。この記事では、グローバル化によって、立場を脅かされる人に向けた処方箋を紹介。なぜ「富の再分配」が大切なのか、を詳しく説明。最新刊『2035年の世界地図』で描いた資本主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。
「グローバル化」が
「国内の不平等」をもたらすのか?
――これまでグローバル化を牽引してきたのは、2つの力であると主張されていました。ひとつは「自己利益の追求」であり、もうひとつは「技術革新」です。テクノロジーは、いま私たちが至る所で目にしているように、遠隔地での生産管理を可能にしました。あなたは、ロシアのウクライナ侵攻後、資本移動の自由化という面からのグローバル化には歯止めがかかるとしても、労働はますますアウトソーシング(外部委託)され、グローバル化は続くと指摘しています。一方で、米国でトランプ氏が大統領に当選し、欧州各地でナショナリズムに駆り立てられた政治運動が盛んになった理由のひとつは、まさに「雇用の外部委託」だったとも言われます。米国やEUのような先進国の国民の間で、労働力の外部委託を許した指導者への不満が高まっていることをどう見ますか。
その不満は、「エレファントカーブ」のグラフが内包しているものですね。というのも、このグラフは、豊かな国の中流階級の相対的地位の喪失を描いたものだからです。グローバル化によってこうした中流階級が経験したのは、実質所得の減少でも、絶対的な所得額の減少でもなく、相対的な地位の損失だったということなのです。ここで問題になるのは、次の問いです。「地球規模のグローバル化はやはり良いことなのか」。
私はやはりそうだと思います。なぜなら、ごく普通の経済学が教えるように、「外国人や自分から遠く離れた人を雇った方が、一定のことはより効率的にできる」という事実は世界的にみれば良いことです。その人に仕事を与えることもできるからです。あなたにとっても良いことです。支払額が少ないし、資源の利用という点でもより効率的です。しかし、損を被る人たちもいます。それは仕事を失った人々です。