ジャック・アタリが「EUの成否がグローバル化の命運を握る」と語る理由「知の巨人」と称されるジャック・アタリ氏 写真提供:朝日新聞社

経済だけではなく、政治や文化芸術にも造詣が深く、あらゆる主題を網羅した文筆活動を行っているジャック・アタリ氏。彼は、ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを数々的中させてきました。そんな彼は、覇権国が衰退している世界をどのように捉えているのでしょうか。そして、欧州連合(EU)の動向に注目しているといいますが、その理由とは。最新刊『2035年の世界地図』で語った民主主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。

グローバル化は
どこへ向かうのか?

――グローバル化は何十年も、ほぼ何の制約もないかのように進んできました。ただ、新型コロナウイルスの危機、そしてロシアのウクライナへの侵攻によって、歯止めがかかったようです。コロナ禍やロシアの侵攻は、物やサービスの貿易、人や資本の移動を大きく減少させ、グローバル化した製品供給網の脆弱性も露呈しました。これは、マスクから半導体に至るまで、物資の不足に最もよく表れています。まず、あなたはグローバル化の現状をどのように捉えていますか。

 確かに、人々が気づいていることは、国際分業のあり方を多様化したほうがいい、ということです。そして今、国家の間で驚くほど統合が進み、どこの国も他の国に依存しすぎている、ということです。したがって、今明らかに認識されているのは、「1つの国に依存しすぎるのは危険だ」ということです。真に賢明な行動が理解され始めています。それは、どの供給者にも20%を超えて依存してはいけない、ということです。だからといって、自国ですべてをまかなうべきだ、というのではありません。それは馬鹿げていますし、不可能です。日本は石油を自国で生産できませんし、色々な原材料を自国では生産できません。でも、1つの生産者に20%を超えて依存すべきではありません。

 一方、グローバル化が弱まることはないでしょう。むしろ、グローバル化は進むはずです。なぜなら、自分たちのグループにより多くのパートナーが必要になりますから。

 グローバル化が弱まるのではなく、もっと洗練された別のグローバル化につながるのです。