「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍等身大の僕で生きるしかないのでです。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを語ってもらいました。(構成・田中幸宏/撮影・榊智朗)

パートナーの理不尽な要求をやりすごし、家庭を平穏無事に保つ、たった1つのコツ

わが家の「ドーナツ論争」勃発

 僕はしょっちゅうドジを踏むし、人をイライラさせがちなタイプなので、嫁によく怒られます。つい先日も、こんなことがありました。?

 ダイニングテーブルの上に、ミスタードーナツの箱が置いてあったので、開けてみると、ドーナツが3個入っていて、1つだけ、ひと口かじられたあとが残っています。あとの2つは新品のまま。わが家は嫁と娘と僕の3人暮らしですから、1人1個というのはわかります。では、誰がどれを食べるのか。?

 僕は、かじられたまま残っているのは、ひと口食べて味が合わなかったから、食べ残したんだと考えました。だから、嫁と娘には、まだ口をつけてない新しいやつを残しておいてあげようと思って、かじられたやつを食べたんです。?

 そしたら、嫁がそれを見て、「食べられないように、わざわざかじっておいたのに!」と怒るわけです。当然「えっ!?」となりますよね。なんでわざわざかじって残しておくのか。食べたいんだったら、そのまま食べてしまえばいいのにって思いませんか??

 ただ、ややこしいのは、3個中の残りの2個は、オールドファッションとか、通常販売されているドーナツだったんです。ところが、かじって残されていたのは、パティシエの鎧塚俊彦さんプロデュースの限定ものだったんですよ。?

 みなさんの「あ~!!!(笑)」という声が聞こえてきそうですが、そういったレアものだったので、嫁の言い分もわからないではありません。だから、これはどっちが正しいということはないと思うんです。考え方が違うというだけで。怒られたけれども、僕が悪いわけではなく、ただ違うだけということです。?

 ところが嫁は、何かあると、反射的に僕のことを怒ります。で、よくよく話を聞いてみると、それくらい僕に気を遣っていないということらしいんです。気を許しているから、すぐ怒れる。気を遣って言いたいことを言えないよりも、よっぽどいい関係だというわけです。本当でしょうか?

余計な争いはしたくない

 本の中でも、洗濯用洗剤のボトルを置く「向き」をめぐって嫁とバトルを繰り広げたエピソードを紹介していますが、嫁は左手でボトルを持って、右手のカップに注ぐ。僕は右手でボトルを持って、左手のカップに注ぐ。だから、嫁にとっての正しい向きは、僕とは正反対です。ただそれだけのことなのに、嫁は「なんでいつも逆に置くの?」と怒るわけです。

 嫁の怒りは、どう見ても理不尽です。だって、それって好みの問題じゃないですか? でも、そこで争っても疲れるだけなので、僕は嫁の言うことを聞き入れて、いまでは左手でボトルを持って、右手のカップに注ぐようになりました。それが僕の好みになったわけです。

 根っこには、どうでもいいところで我を張ってケンカになるくらいなら、余計な争いはしたくないという気持ちがあります。そんな僕を見て、「そんなことで屈するなんておかしい」「間違ってる」と思う人がいるかもしれません。もしかしたら、尻に敷かれているように見えるかもしれないし、実際、そうなのかもしれません。でも、人間が人それぞれであるように、夫婦関係もそれぞれ違う。そこは2人で話し合って決めていけばいいのかなと思っています。

「ドーナツ論争」ふたたび

 そんな感じで、人と争わない主義の僕は、11歳になる娘にもよく怒られます。そのときの話は本でもいくつか紹介していますが、最近は娘も少し大人になってきて、LINEのやりとりもするようになりました。といっても、たいていおねだりで、「○○買って」といったささやかなコミュニケーションが増えました。

 そんな娘との間にも、「ドーナツ論争」が勃発したことがあります。うちはどれだけドーナツ好きなんだという話ですけど、娘が食べるように1個だけドーナツがあったんです。それが2日くらい置きっぱなしになっていた。そろそろ賞味期限が切れると思った僕は、親切心を起こして、食べてあげたんです。

 そしたら娘に、「これ、残してたんだけど」と言われました。けれど、前だったらたぶんブチ切れていたところが、そんなに怒られなかったんですよ。それなのに自分は、「無意識に食べた」と言っちゃったんですね。とっさのことで、誤魔化す自分が顔を出してしまったんです。そしたら、「いやいや、ありえないでしょ。無意識で食事することできないよ」と、案の定、ツッコまれましたけどね。

 嫁も娘も口撃力がハンパないので、できるだけ争わないようにしています(笑)

パートナーの理不尽な要求をやりすごし、家庭を平穏無事に保つ、たった1つのコツ内間政成(うちま・まさなり)
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。