「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍等身大の僕で生きるしかないのでです。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを語ってもらいました。(構成・田中幸宏/撮影・榊智朗)

どん底のときの自分を救ってくれたひと言

いまの気持ちを味わうことで見えてくる自分

 どん底というと、僕の場合は2019年の闇営業問題を避けることはできません。余興で呼ばれた先に反社の人がいたことが問題になって、謹慎することになったのですが、最初はもうパニックです。営業先に反社の人がいるなんて、思いもよらないことだったからです。

 頭の中は「???」だらけで、自分が何をすればいいのか、何から手をつければいいのか、まったくわからない状況でした。

 謹慎中は毎日、相方と電話でいろんなことを話しました。そこで言われたのは、「いまの気持ちを味わおう」ということでした。いま、自分はどういう気持ちなのか。落ち込んでいるのか、つらいのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。それを相方は、カウンセリングのように上手に聞き出してくれました。

 はじめのうち、僕は、どん底に落ちたら、どうにかして這い上がらなければいけないと思い込んでいました。でも、這い上がろうと思うだけで相当カロリーを使うし、精神的に疲れるんです。

 ところが、「いまの気持ちを味わおう」と言われると、いままで別々に分かれていた自分がその場と同化するような感じがしました。いま、こういう感じなんだ。だったら、こんなことをしてみたいな。あわてるだけで何も手につかなかったときと比べると、いまを感じるだけで、気持ちが落ち着いていくようでした。

 もともと相方はそういうのが好きで、いろんな本を読んだり、YouTubeで見たりして知ったことを、僕に教えてくれるんです。どんなことで悩んでいるか、自分から話してくれるので、「そんなことで悩んでるんだ」という気づきもあるし、向こうが本音を打ち明けてくれるから、僕もだんだん素直に自分の気持ちを話せるようになりました。

ひとまず自分を受け入れてみる

 落ち込んで、決して調子がいいわけじゃない自分と向き合って、いまの気持ちをきちんと知るのは、最初は怖いと感じるかもしれません。目を背けたくなる自分、他人と比べて劣っている自分、保身のために嘘をついてしまう自分、失敗をなかったことにしたいと願う自分……。

 人のことをうらやましく思ってしまうのも、人と比べてダメな自分を否定したくなるのも、しょうがないと思うんです。それは避けられない。でも、どうせ避けられないなら、それでもいいじゃない、そんな自分でもいいじゃない、と認めてあげる。自分の感情を頭から否定することをやめて、いったん受け入れてみる。すると、不思議なことに、自分という生き物が前より力強くなった気がするんです。

 何をそんなに悩んでたのかなとあらためて考えると、自分は人と比べて劣っている、それを誰にも話せなかったんです。自分はダメだ、ダメ人間だと思っているから話せない。

 だけど、ダメな自分を認めてあげると、自然と話せるようになる。それで実際に話してみると、「あれ? いままで悩んできたけど、これってもしかして、たいしたことないのでは?」と気づくことが多かったんです。気にしているのは自分だけで、相手はちっとも気にしてないということがけっこうあったわけです。

2人に分かれていた自分が1つになる瞬間

 自分の感情をストレートに出せなかったとき、僕は、本当の自分と、感情に蓋をして本心を隠したもう1人の自分に分断されていたのではないかと思います。肉体と精神が分離していたと言ってもいいかもしれない。

 ところが、自分の気持ちを認めてあげると、2つに分かれていた自分が1つにすっと重なり合うような気がしたんです。肉体と精神が噛み合って、おさまるべきところにおさまったというか。そしたら、自分にこういうことをさせてあげたいなと、前向きな気持ちがわいてきたんです。

 それこそ、ありのままの自分なんですけど、それを認められるようになってきたのです。上辺だけを取り繕うのではなく、等身大の自分を愛せるようになった、という感じに近いかもしれません。

 それを引き出してくれたのが、相方のカウンセリングでした。それによって、ありのままの自分と向き合えただけでなく、相方に対して、本当の自分をさらけ出すことができました。自分のことをわかってくれる人がいるという感覚は、自分一人だけで抱えていたときとは比べものにならないほど安心で、心が癒やされる体験でした。

 悩んでいるのは自分だけじゃないと知ったことも大きかった。みんな同じようなことで悩んでいて、「あなたもそうなの?」とわかると、救われました。

 だから、大事なのは、誰かに話してみることなのかなと思います。一人でもいいから話せる相手を見つけて、実際に話してみる。自分の感情を誰かとシェアすると、こんなにも気持ちが楽になるというのは発見でした。それを引き出してくれた相方には、感謝しています。

人びとのやさしさを実感した出来事

 闇営業問題で謹慎していたときは、いろんな方から声をかけていただいたり、ふだんはあまり面識のない先輩たちから、急に食材とかを贈っていただいたりして、収入面その他で心細い思いをしていた自分には、本当にありがたいことでした。

 たとえば、俵のお米やお肉、好きなお酒1ケースとジュースなどを贈っていただきました。ある先輩からは「おまえの娘、お酒好きやからなあ」とボケてくれたので、「いやいや、まだ未成年ですよ」とツッコませてもらったり。

 ある方から俵のお米をいただいたときは、たぶんそれがメディアに流れたんだと思うんですけど、2日後に別の方が僕に連絡をくれて、「今日の夕方、空けといて」と言われたので待ってたら、「ごはんのお供」というギフトを持ってきてくれました。俵のお米に、ごはんのお供というあわせ技で。

 人びとのやさしさを実感するとともに、吉本興業の組織力を感じた出来事でした。

どん底のときの自分を救ってくれたひと言内間政成(うちま・まさなり)
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。