「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍『等身大の僕で生きるしかないので』です。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを語ってもらいました。(構成・田中幸宏/撮影・榊智朗)
失敗するのは避けられない。問題は次に何をするか
失敗は誰にでもあります。待ち合わせに遅刻するとか、約束に間に合わないとか、どんなに気をつけていても、「あー、やってしまったー」というミスはどうしても起きてしまう。それは不可抗力で、ある意味、しかたないことです。でも、「あー、やってしまったー」のあとに何をするかは、自分で選べます。絶対にやっていけないのは、自分を責めることです。
「なんであんなことをしてしまったんだ」「ダメだダメだ」とネガティブなことばかり考えていると、どんどん落ち込みますし、やってしまったことを怖がりすぎて、次の行動に移れなくなると思うんです。自分はまさに、自分のことを責めてしまう人間でした。
でも、そんなときこそ、自分のことを少しだけ許してあげる。「けっこうたいへんだったし、失敗するのもしょうがないよ」と認めてあげる。「ああ、やってしまったけど、しかたないなー」「また怒られるなー」くらいの軽い気持ちで、ネガティブなスパイラルに入る手前でストップをかける。自分にやさしく接することで、必要以上に落ち込むのを防ぐのです。
というのも、たいていの失敗は、そこまで大きな失敗じゃないからです。自分が大げさにしているだけで、そこまで深刻に落ち込むほどではありません。戦国時代なら、失敗すれば首をとられたり、切腹を命じられたりしたかもしれませんが、いまは、そんなことはありません。だったら、失敗したあとに何ができるか。そこに力を入れたほうがいいはずです。
失敗した自分を許してあげると、失敗を恐れなくなる
僕は自分のミスを隠すために、すぐに誤魔化したがるタイプなので、思わず嘘の言い訳を言ってしまうこともあります。でも、それも、自分を責めるからこそ、言い訳が出てきてしまうのです。「自分は悪くない」と言い繕いたくなるのは、本心では「自分が悪い」とわかっているからです。マズイことをしてしまったと思っているから、それを隠したくなるわけです。
しかし、最初に失敗をして、そこに嘘の言い訳を重ねれば、2回やってしまうことになります。最初の「やってしまったー」だけでも衝撃なのに、もう1つ、今度は自分からミスを積み重ねるのは、さすがに罪が重い。そうならないためにも、最初の「やってしまったー」の時点で、自分を責めすぎないことが必要なのです。ミスは誰でもするものだし、やってしまったことはしかたない。そう認めることで、嘘の上塗りをしたくなる自分をどうにか抑える。
でも、もし、そこで言い訳をしてしまったとしても、言い訳をした自分を過度に責めない。あわてて思わず言っちゃったんだなとわかってあげる。そうやって、少しずつ自分に歩み寄っていくことが大事かなと思います。
なぜかというと、自分を責める気持ちが強すぎると、次はなるべく失敗しないように、失敗しないように行動するようになるからです。ミスすることを怖がりすぎると、最初から何もしないことが正解になってしまう。失点しないためには、新しいことにチャレンジしないで、やり慣れたことをやっていたほうがいいからです。でも、それではつまらない。
たくさん失敗する人は、新しいものを生み出す可能性が高い
失敗が大事なのは、失敗を経験しておかないと、悪いほう、悪いほうに妄想がふくらんで、何もできなくなってしまうからです。頭の中で想像するだけじゃなく、若いときからたくさん失敗していれば、失敗しても、それこそ首をとられるわけじゃないことがわかる。失敗するから知恵がつくのであって、失敗しないと、そもそも成長できないし、いくつになっても失敗を避ける方法も身につきません。
これは、教育の問題だと思うんですけど、若いころに、たくさん失敗させてくれるような環境を用意してほしいです。やってみないとわからないことって、たくさんありますから。
失敗したら減点して、正しい方向に矯正するようなやり方ではなくて、失敗の数だけ加点して、これだけ失敗できたということは、次からも新しいことにどんどんチャレンジできるはずだと評価すれば、大きく変わるはずです。教育スタイルが減点法だと、やっていても楽しくないですよね。やらないと減点されるから、やりたくないことをやる習慣が身についてしまって、それは怖いなと思います。
僕は自分の娘に教育しないことを教育方針にしています。お袋のおかげで、教育の恐ろしさを知っているということもあるし、教育しないと決めているので、できないからといって、責めたりはしません。加点法とはいえないかもしれないけど、少なくとも減点法の教育はしていないつもりです。
ただ、娘の言動を見ていると、義務感でやらされている、やらなきゃいけないという感覚があって、「宿題をやらなきゃいけない」「空手に行かなきゃいけない」というニュアンスのときは気になります。好きなことをやってほしいというのが一番の願いなので、娘が何か好きなことをやっているときはうれしいし、僕はそれを目指したいと思っています。
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。