樹齢数百年から1000年といった植物は、どうしてそんなに長生きなのか? 疑問に思ったことはないだろうか。実は、長生きしている樹木も大部分が死んでいるのだ──。ユーモアたっぷりに教えてくれるのは、ロングセラーとなっている『若い読者に贈る美しい生物学講義』。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を語っている。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏からも絶賛の声。本稿では本書より一部を抜粋・編集して「長生きする植物のヒミツ」について紹介する。(構成:小川晶子)

若い読者に贈る美しい生物学講義Photo: Adobe Stock

樹木は人間よりも長く生きる

 樹木は人間より長生きする。そんなイメージを持っている人も多いのではないだろうか。

 実際、山歩きなどしていると樹齢数百年とか1000年の木がけっこうある。

 筆者は先日、東京の御岳山にある国指定天然記念物の神代ケヤキを見た。樹齢はその太さから推定1000年と言われ、何とも言えない迫力で参道を見下ろしている。

 この1000年の間、自然と人間の営みをどのように見てきたのだろう……。そんな感慨を持つ。

 人間はどんなに長生きしても115歳くらいまでだと言われている。

 今のところ、世界でもっとも長生きした人はフランスのジャンヌ・カルマンさんで、1997年に122歳で亡くなった。

 今後、科学の進歩によってさらに寿命は延びるとも言われているが、さすがに縄文杉のような長生きは無理だろう。

科学的に樹齢を調査すると

 屋久島の縄文杉は、確認されている中で最も太さがあることから樹齢7200年と推定されたこともあった。

 ただ、直径から推定するのはあまりあてにならない。樹木の太くなる速さは個体によって違うからだ。

 より正確に調べる「放射性炭素を使った測定」では、2170年という値が出たそうだ。

 縄文杉の近くにある大王杉は、放射性炭素による測定で3000年以上と推定されているので、現在知られている限りではこの大王杉が最長寿ということらしい。

放射性炭素を使った測定とは?

 本書にあるわかりやすい説明を、ごく短くまとめて紹介する。

 生物の体を作っている主要な原子である「炭素」の中に、「炭素14」という放射性炭素がある。

 炭素14は他の安定した炭素と違い、放射線を出しながら少しずつ「窒素14」に変化する。

 つまり、炭素14自体は減少していく。炭素14が最初の量の半分になる時間は決まっており、5730年である。これを利用するのが、放射性炭素を使った年代測定だ。

 ここで面白いのは、生物が生きている間の放射性炭素の割合は、大気と変わらないということだ。

 植物が生きており、光合成や呼吸している間は、植物内の炭素は大気との間でやりとりされている。

 だから炭素14の割合は減らない。死ぬと、大気とのやりとりがなくなって、植物内の炭素14はゆっくり減少を始める。

 つまり、放射性炭素による年代測定では、死んでからどのくらい経ったかがわかるのである。

 ちょっと待って。縄文杉や大王杉は死んでいるということ?

 そう思ったあなたは鋭い。

 実は、「樹木は生きているときから、大部分が死んでいる」のである。驚きではないだろうか。

樹木の中心部分は死んでいる

 樹木の幹の中には水を運ぶための「道管」や「仮道管」があるが、ここの細胞は中身が空っぽ、つまり死んでいる。

 道管や仮道管ができるまでは普通の細胞だが、完成するともう不要になって死んでしまうのだ。

 中身が空っぽのパイプ状態だからこそ水をたくさん運べるのであって、そのために自ら死ぬようなものだ。

 そして、幹が太くなるにつれて死んだ細胞が増えていく。

 幹が太くなると中心部の道管、仮道管はふさがり水を通さなくなって、腐りにくくなる。その周りの細胞も死に、中心部は死んだ細胞ばかりになる。

 太い幹の中心部分は、死んでいる。これを「心材」という。心材のまわりには生きている部分があり、これを「辺材」という。

 もちろん、辺材の中にも道管や仮道管があり、その部分の細胞については死んでいることになる。

 丸太などを見ると、中心部分と周辺部分で色がくっきり分かれているものがある。色の濃い心材は、強度があって耐久性に優れているので柱などによく使われる。

植物は本当に長生きなのか?

樹木は長生きといっても、生きている部分は幹の外側にどんどん移動していく。同じ部分が生き続けているわけではないのだ。そのため、何千年も生きているブリスルコーンパインでも、細胞の寿命はせいぜい三十年程度らしい。そう考えると、植物が長生きなのかどうか、わからなくなってくる。
(P.138-P.139)

 ブリスルコーンパインとはアメリカの高地に生えている植物。5000年近く生きているものがあるが、細胞単位で見ると30年程度しか生きていない。これをどう捉えるか。

 また、興味深いのは、死んでいる部分が樹木を支えるのに役立っているということだ。中心が死んでいるからこそ大きくなれるのである。

 ご長寿樹木を前に、「生きているとはどういうことか」と、なんだか哲学的な問いにたどり着く。

 本書の魅力の一つは、科学的な手法や考え方をわかりやすく示しながら、あらためて生物の多様性をさまざまな角度から感じさせてくれるところだ。

「長生き」や「寿命」という角度から生物を見てみるのも面白い。

 今度、巨木に出会ったら、植物の長寿法について思いを馳せてみてはいかがだろうか。