変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

なぜ日本では「人手不足」が深刻化しているのか? 海外事例から考える至極当たり前の理由Photo: Adobe Stock

深刻化する人手不足

 現在、日本の多くの都市では、あらゆる分野において労働力不足が大きな社会課題となっています。この問題は、単に人口減少によるものではなく、高度に人手に依存する社会インフラを作り続けていることが大きな原因だと考えられます。

 筆者の地元の地方都市では、コロナ中に複数のイベントホールが建設されましたが、利用率はかなり低いと聞いています。ハコモノを建設することで一定の雇用を生み出し、大規模なイベントが増えることにより経済効果が見込めることは確かですが、人手不足によりその運営や維持が困難となり、結果的に利用率が低下しているとあったら、元も子もありません。

低人口密度でも社会が機能しているオーストラリア

 広大な土地に人口約2500万人を擁するオーストラリアの人口密度は3人/㎢で、日本の333人/㎢や米国の34人/㎢と比較してもはるかに低いことが分かります。日本でも過疎化する地方都市がそうであるように、人口密度が低い地域ほどさまざまなサービスや生活インフラが衰退し、住民の不便さが高まるという課題を抱えるようになります。

 そうした中、オーストラリアでは低人口密度を支える技術が数多く開発されています。例えば、遠隔医療を含む効率的な医療サービス、24時間空いているジム運営をサポートする技術、農業を自動化する技術などいろいろ挙げられますが、デジタル化と自動化による効率的な社会インフラの整備によって、少ない資源で高い効率を実現しています。

 各種制度や方針が異なる国の間での単純な比較はできませんが、小売店や宿泊施設、物流などを比較しても、オーストラリアは必要最小限の人手で運営するための工夫をしていることが見受けられます。

トップで方針を固めてから現場のアジャイル化を

 スマホに代表されるデジタル技術がある現代では、ハコモノなどのハードを増やすのではなく、減らして人依存の社会インフラから脱却すべきです。デジタル技術の利用を拡大し、業務プロセスを見直すことで、必要とされる人手は減らすことができます。そして、現場力が強いと言われる日本においては、限られた人員で最大限の成果を出すことを目指すアジャイル仕事術の導入が有効だと考えます。

 その際注意しなくてはならないのが、経営陣が「やらないこと」を明確にせずに現場をアジャイル化すると、逆効果になってしまうという点です。

 アジャイル経営では、経営陣がパーパスのような抽象的な方向性を定めて、現場が「誰に」「何を」「どうやって」を考えて実行することで、変化する環境に合わせて柔軟に対応することを可能にします。現場にある程度の権限を与えるとなると、「実施しないこと」を具体的に提示しておくことが重要であり、その方針が不明瞭なままむやみにアジャイル化を進めようとしても、ただただ現場は混乱してしまいます。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。