石油元売り最大手のENEOSホールディングス(HD)では、旧日本石油出身者による支配が続いてきた。だが、まさかのトップが2代連続のセクハラ辞任で、非主流派の旧東燃出身、宮田知秀氏に社長の座が回ってきた。産業エネルギー販売部門、勤労部門経験者を示す隠語「黒バット」が出世の大条件となってきた日石カルチャーから同社は脱したのか。特集『石油ムラ 大異変』(全5回)の#1では、早くもうわさされる次期社長候補者の実名を明かすとともに、激変するENEOS HDの権力構造をひもとく。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
2代連続でセクハラ辞任の不祥事
「旧日石の遺伝子」に対する批判
「約20年の間に合併・統合を重ねてENEOSホールディングス(HD)となったが、中身は日本石油(日石)のままだったというわけ」「酒とゴルフが仕事だと勘違いしている人が多い」「旧日石の遺伝子だ」――。複数の石油元売り業界関係者から辛辣な意見が上がる。
日本の超大手企業の一つ、石油元売り最大手のENEOS HDは醜聞に見舞われてきた。2022年には杉森務会長グループCEO(最高経営責任者、当時)が、23年には齊藤猛社長(当時、主要事業会社ENEOS社長も兼務)が酒席における女性へのセクハラによって辞任した。まさに耳を疑うような不祥事が2年連続で続いた。
2人はENEOS HDにおいて主流派である名門、日石入社組だ。特に杉森氏は「黒バット」の隠語で知られる、日石におけるエリートコースを代表する存在だった。そしてその杉森氏が一連の不祥事前に、「ど真ん中の人事」と太鼓判を押し、社長に就いたのが齊藤氏だった。彼らが起こした不祥事に対し、業界では冒頭のような批判が飛び交う。
ある業界関係者は「不祥事の背景を一言で表すならば、いまだJTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)だからですよ」と、旧日石が主流のENEOS HDにおける硬直的な企業カルチャーを皮肉る。
同関係者などによれば、その企業カルチャーとは、社内ヒエラルキーが非常にきちんとしている男性社会、そして業界最大手で外圧は小さく「社内の上だけを見ていればいい」。従って、出世して上に立てば尊大になるというのだ。
相次ぐ不祥事で、会社の変革の旗手として白羽の矢が立ったのが、ENEOS HD新社長となった旧東燃出身の宮田知秀氏(58歳)と、ENEOS新社長の旧三菱石油出身の山口敦治氏(54歳)である。
どちらも非主流派で、社内外の関係者は「前代未聞の連続不祥事がなければ、候補にも挙がらなかった人物」と指摘する。2人は「黒バット」に代表される企業カルチャーの刷新を成し遂げられるのか。
一方で、別の業界関係者は「3月までの経営幹部たちは会社の大改革に戦々恐々としていたが、4月以降の役員人事が出て胸をなで下ろした」と打ち明ける。
昨年末の齊藤氏のセクハラ辞任から今年2月末の新役員人事発表までの間、社内で何が起きていたのか。実は、早くも、かつての主流派である旧日石出身者が次期社長候補としてうわさされている。次ページでは、次期社長候補の実名や、名前が挙がる理由について解説していく。