生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊された。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。
前って何だろう?
私たちヒトは動物である。私たち自身が動物なので、動物はもっとも身近な生物である。そんな動物の特徴の一つは、前と後ろがあることだ。植物には前とか後ろとかいうものはないけれど、犬や魚を見れば、どちらが前でどちらが後ろか、すぐわかる。
でも、前とは何だろう。私たちは動物の何を見て、前だと思うのだろうか。動物は動く生物である。中にはフジツボのように、ほとんど動かないものもいるけれど、たいていの動物は動く。では、動く方が前なのだろうか。
じつは、それで正しい。動く方が前なのだ。でも、話はそれだけで終わらない。
たしかに、犬が走っていれば、魚が泳いでいれば、どちらが前かは一目瞭然だ。しかし、犬や魚が止まっていても、どちらが前かが私たちにはわかる。それはなぜだろうか。
眼がある方が、前なのだろうか。でも、深海魚とかには眼のないものもいるけれど、それでもどちらが前かは、すぐわかる。眼でないとすれば何だろうか。
その疑問に答えるために少し視点を変えて、動物の卵が成体になる過程を、つまり発生を考えてみよう。