「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

「終わりよければ、すべてよし」。最後にハッピーエンドであることが幸福感には重要Photo: ELUTAS / PIXTA(ピクスタ)

終わりよければ、すべてよし

 これは、物語には短期的なものと長期的なものがあるということでもある。

 短期的な物語は「いま、ここ」が舞台だ。ずっと憧れていた恋人とはじめてデートしたときは、自分が映画の主人公になったように感じたのではないだろうか。

 あるいは、恋人から別れを告げられて落ち込むこともあるかもしれない。そんなときは、幸福だった頃を繰り返し思い出したり(過去のシミュレーション)、失恋を乗り越えて新しい恋を探しに行こうとしたりする(未来のシミュレーション)。

 それに対して長期的な物語は、ある程度の年齢になってから、自分の人生を振り返ることだ。そして多くの研究が、「いろいろあったけど、なかなかいい人生だった」と思えることが、幸福感にとってものすごく重要であることを示している。

 このことは、実験によって簡単に確かめることができる。最初に氷水のなかに手を入れ(かなり痛い)、次に常温の水に手を入れたときと、この順番を逆にして、最初が常温の水で次に氷水のときとでは、痛みの感覚はまったくちがう。物理的な刺激としては痛みの総量は同じはずなのに、最初に痛みがくることは耐えやすく、最後に痛みがくるのははるかに苦痛が大きい。

 脳は直近の出来事に強く影響され、過去の出来事ほど影響は薄れる。「終わりよければ、すべてよし」なのだ。

 だがこれは、短期的な物語はどうでもいいということではない。当たり前の話だが、長期的な物語とは、日々の物語が累積したものなのだ。