「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つのの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

幸福とは、自分の人生を「よい物語」として(自分や他人に)語れること。不幸とは、人生という「物語」が破綻してしまったこと。Photo:ナオ / PIXTA(ピクスタ)

脳は「物語」として世界を理解する

 誰もが人生の主役だ。とはいえこれは、自己啓発本にありがちな「きれいごと」ではない。ヒトの脳がそのように設計されているという生物学的な事実だ。

 近年の脳科学は、脳を超高性能のシミュレーション・マシンだと考える。いわば「if-then」のプログラムで、「もしAという条件が満たされれば、そのときはBになる」という予測をひたすら繰り返している。

 これに記憶が加わると、「もしあのときこうしていたら、こんなことにはならなかったのに」という過去のシミュレーションが可能になる。これは「後悔」とか「反省」と呼ばれる。

 過去の出来事を、いま起きている(同じような)事態に当てはめるのが「学習」だ。「あのときはこれで失敗したから、こんどはこうしてみよう」と考えることは、生存や生殖の強力なツールになっただろう。

 それだけでなく、ヒトは未来に向けてのシミュレーションもできるように進化した。「いまここでこうしたら、明日(あるいは1年後)にはこうなるだろう」という予想は、「夢」や「希望」を生み出す。脳のこうしたシミュレーション機能は、「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」と呼ばれる。

「過去」「現在」「未来」のシミュレーションをばらばらに行なっているだけでは、ほとんど役に立たない。反省や学習、あるいは希望には、過去から未来へと一貫する「主体(わたし)」が必要だ。このようにして、より効率的なシミュレーションのために「わたし(自己意識)」が進化した。

 では、脳はどのように「わたし」を生み出したのか。それが「物語(自伝的記憶)」だ。

 後悔(過去のシミュレーション)も、希望(未来のシミュレーション)も、「わたし」を主人公とした物語として意識されている。わたしたちは「物語」以外の方法で、人生を語ることも、世界を理解することもできない。

 ここから、「幸福」と「不幸」を次のように定義できる。

幸福とは、自分の人生を「よい物語」として(自分や他人に)語れること。
不幸とは、人生という「物語」が破綻してしまったこと。

 成功とは、よい物語をつくれるような人生を設計することなのだ。