企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

メンターに特別な能力は必要ない

 確かに人から尊敬されるということは、とても難しいことかもしれません。尊敬されようと思っても、簡単にできることではないでしょう。

 そもそも、尊敬されるためには、どうして良いのかわからないという人もいると思います。

 実は、尊敬されるために最も必要なことは、自分自身が一日一日の人生を大切にして、一所懸命に生きることです。

 自分の人生を精一杯生きていくこと、それ自体がメンターになることなのです。

 ですから、メンターになれるかどうかは能力や経験とはまったく関係ありません。

 自分が夢を持ち、本気になって自立した生き方を実践することで、メンターになることができます。

 それは、相手がどうかという問題ではなく、自分自身の生きる姿勢の問題なのです。

 つまり、自分の生き方によってたとえ相手が部下であっても、上司であっても、そして家族や友人であっても、どのような相手に対しても、自分がメンターになることができるのです。

 ある電力会社に、Sさんという人がいます。ある時、Sさんが関連会社に出向となり、私もSさんの地域支援活動の協力のために、講師としてその出向先の会社に伺いました。

 講演後、Sさんとその上司である部長の二人が、私を空港まで送ってくださいました。その時のことです。

 Sさんと私が話をしていると、部長はメモを取り出して、何かを書いています。時々、Sさんの顔を覗くようにしては、またメモを取ることを繰り返しています。

 私は思わず、部長に聞きました。

「いったい、何をメモしているのですか?」

「とにかく彼の話を聞いていると、参考になることがたくさんあるんですよ。仕事面でも地域の方々から絶大な信頼を得ています。何もかもが参考になります。だから、なるべく一緒にいて、彼の話の内容をメモに取るようにしているんですよ。忘れっぽいものですから……」

 部下は上司のメンターになることもできます。部下の生き方が、上司にとって最高の教科書になるのです。

 また、外食フランチャイズ・チェーンで、大きな成功をおさめた会社があります。

 その会社には、全国に広がる店舗を支援するために、スーパーバイザーという仕事があります。

 スーパーバイザーは、二十代から三十代の若手中心で構成されています。その仕事は、加盟店のために、様々な支援を行うことです。

 スーパーバイザーと加盟店の信頼関係が、フランチャイズ・チェーンのネットワークを支えているのです。

 もし、スーパーバイザーが信頼関係のないまま、「年末年始は休まず営業してください」等の話を、加盟店に持っていったとします。すると、次のような言葉が返ってくることでしょう。

「いい加減にしてくれ! 朝早くから深夜まで働いて、こっちは疲れ果てているんだ。年末年始ぐらいは休ませてくれ!」

 このようにならないように、この会社では信頼関係をつくるノウハウを持っています。

 そのノウハウとは、「本気」です。相手が成功したいと思っている気持ちよりも強い気持ちを持って、相手を成功させるべく行動することです。つまり、相手よりも本気になるということです。

「若いのに本当によくやってくれる。私のお店のことを、いつでも真剣に考えてくれる。本当に感謝しているよ」

 このように相手から言われるようになれば、フランチャイズ・チェーンを成功させることができるようになります。

 知識や経験では及ばなくとも、気持ちであれば相手よりも強く持つことは可能です。自分のやる気以上に、他人をやる気にさせることはできません。

 そしてこれこそがフランチャイズ・チェーンを成功させる真のノウハウなのです。