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目の見えない人がアートを「見る」?著者のそんな疑問から3人の旅は始まる。
本書は、全盲の美術鑑賞者、白鳥建二さんと、著者、友人の佐藤麻衣子さんがバンドメンバーのように日本全国の美術館を巡り、ピカソや仏像、現代美術などの作品を前にしておしゃべりをする内容となっている。美術作品そのものを楽しむ本であり、全盲のひとの人生の話であり、酔っ払った友人同士の恋や夢をめぐる雑多な会話の記録でもある。
美術鑑賞の合間に、白鳥さんは少しずつ自分のことを語っていく。なぜ美術鑑賞を始めたのか、どんな作品が好きなのか、どんな子ども時代だったのか。白鳥さんを次々と「発見」していく形でストーリは展開する。
3人の面白おかしい、時としてちぐはぐな会話が、「言葉で鑑賞する」ことの可能性を広げていく。目の見えているひと同士でも、見えているものが違うことがある。だが、わたしたちは普段それを意識することがなく、自分の見えているものを言葉で共有しようとする機会は少ない。白鳥さんと鑑賞することで、著者の側に新たな発見や喜びが生まれていく。
『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』は、多くの人の共感を得て、「2022年 Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞した。誰かと美術鑑賞をする喜び。自分の中にあった偏見。見えていても見えないもの。目の見えないひととの鑑賞を通して、本書のテーマはどんどん広がっていく。読み終わったら、世界の見え方が少し変わるかもしれない。多くのひとにぜひ読んでいただきたい一冊である。(Toshi)