「VoiceOver」という画面読み上げ機能を活用したiPhone・iPadの使い方教室を開き、視覚障害者に夢と希望を与える講師がいる。井上直也さん・33歳。彼もまた、ほぼ全盲の視覚障害者である。(フリーライター 岡林敬太)
視力減退で仕事も辞めた
失意の中で掴んだ“光明”とは
井上さんがほぼ全盲になったのは、昨年9月のことだ。
高校を卒業後、営業職に8年間従事したのち、飲食店で4年間勤務。二十代後半から視力の減退に悩まされるようになり、2014年に眼科へ行ったところ、両目とも網膜剥離の診断を受け、右目はすでに失明していることがわかった。
その後、短期バイトなどで食いつなぎながら手術と入院を繰り返したが、左目の視力も日ごとに低下。仕事も辞めざるを得なくなった。だが、井上さんはそんな中にあっても、わずかな“光明”を見出していた。
「まだ少しだけ左目が見えていた去年の2月頃、三宅琢先生(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員)が講師を務める視覚障害者のためのタブレット端末活用術のセミナーを受け、『将来を悲観する必要はない』と勇気づけられたんですよ。実はそれ以前から、ネットの記事でVoiceOverの存在は知っていて、入院中に独学でその使い方を習得していたのも大きかったですね」
VoiceOverとは、iPhoneやiPadの画面上の文字を音声で読み上げてくれる視覚障害者向けの機能で、Siriに命じるだけですぐに立ち上げることができる。この VoiceOverが、井上さんにとって大きな希望となった。
昨年の9月には左目の視力もほぼ失ってしまったが、「そのときも、それほど落ち込まなかった」と井上さんは振り返る。
「年配の全盲のみなさんも杖一本でなんとかやっているんだから、若い自分ならなんとか生きていけるだろう、と思った。それに、落ち込んでいる暇もなかったんです」