幼い頃、草木に触れて自然の中で友人と遊んだ日々や、親と一緒に楽しんだ旅行の思い出。それらの“体験”の記憶は、大人になった今も克明に覚えているという人も多いだろう。しかし今、子どもたちの間で体験機会の質や量に格差が生じているという。幼少期の体験が子どもに与える影響や、格差拡大の背景について、専門家に話を聞いた。(清談社 真島加代)
親の学歴が影響する
子どもの体験格差
経済的困窮や社会の孤立などのさまざまな事情で、旅行をする、友達と遊ぶ、自然に触れるなど、多くの人にとって「当たり前」の体験をするのが難しい子どもたち。彼・彼女たちは、それらの問題を抱えていない子どもに比べて、得られる体験が圧倒的に少ないという。
「最近では、親の所得や学歴が子どもの教育の質に影響を及ぼす“教育格差”の認知度が上がっていますが、親が子どもに割く『時間』に格差が生じている事実は、あまり知られていません。体験格差は、親が子どものさまざまな体験のために割ける時間の格差ともいえます」
そう話すのは、東京財団政策研究所研究主幹で、慶應義塾大学総合政策学部教授の中室牧子氏。
中室氏によると、子どもを持つ親が自分の時間の使い方を家計簿のようにして記録した「生活時間調査」を分析すると、子どもたちの体験格差が生じている背景には、親の学歴や所得が深く関わっていることがわかるという。
「生活時間調査は、睡眠時間や家事時間など、対象者が生活行動にかけた時間を可視化したもの。体験に関するものは、母親が子どもの『勉強』に投資する時間(本の読み聞かせや宿題の手伝いなど)と、『体験』に投資する時間(お絵かきや屋外での運動など)の2つに分けて、かけた時間を計測しています。多くの国で調査が行われており、それらの結果によると、所得や学歴が高い親は『勉強』と『体験』に、多くの時間を割いていることがわかりました」
また、厚労省の「21世紀出生児縦断調査」では、親が子どもをキャンプや釣り、動物園などの体験活動に参加させた回数を集計し、父親、母親の学歴ごとにその割合を比較した。その結果から、高卒、短大・専門卒、大学・大学院卒のうち、親の学歴が「大学・大学院卒」の場合が、子どもに体験の機会を与えている回数が多いことがわかっているという。
「このように、親の学歴や所得の差は、子どもの勉強だけでなく、体験の格差にもつながっているのです」