「なんか浅いな……」
人の話を聞いて、こう思った経験のある人も多いと思います。言われた経験のある人もいるでしょう。コンサル22年の知見を一冊に凝縮した『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者である安達氏は、「“浅いな”と思われてしまう人が勘違いしていること」があると言います。本記事では、「知性」と「コミュニケーション」の新法則を綴った『頭のいい人が話す前に考えていること』より、本文の一部を抜粋・再編集してお届けします。

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

話の深さは〇〇で決まらない

 オフィスで後輩が先輩とこんな話をしていました。

後輩「先輩、昨日テレビで見たんですけど、年収を上げるには、英語力と会計の知識が重要みたいです。どう勉強したらいいですかね?」

先輩「えっと……佐藤さんの仕事って、英語も会計も使わないよね?」

後輩「でも、英語って、グローバル化の流れの中で、重要なのは間違いないですよね?」

先輩「重要じゃないとは言わないけど……そもそもグローバル化が佐藤さんの仕事にどう関係しているの?」

後輩「いや、最近みんなグローバル化って言うじゃないですか。お客さんも、“グローバルの推進”を掲げてましたよ」

先輩「否定はしないけど、グローバル化の推進って……どういうこと?」

後輩「えっと……詳しくは聞いてないんですけど……」

先輩「……ま、頑張って」

 先輩は、この後輩を“ちゃんと考えていない奴”と認定しました。
 この会話を読んで後輩の話が“浅いな”と感じた人もいるかもしれません。

 このように、人の話を聞いて、「浅いな」とか、逆に「深いな」と感じることはないでしょうか。

 私がコンサルタントとして3000社1万人もの人と対峙する中でも「考えが浅いな」と思われている人は一定数いました。

「考えが浅いな」と思われてしまう人の最大の特徴は、

「考えている人」と思われようと、難しいテーマを持ち出す

 ということです。

 話題のテーマで話の「深さ・浅さ」が決まるわけではありません。

 多くの人が意識的か無意識的かは別にして、「他人から“頭がいい”と思われたい」と思っています。

 しかし、だからと言って難しいテーマを持ち出すと「賢いフリをしているだけで浅いな」と思われてしまいます。

 たとえば、政治の話をしても浅い人はいます。
 逆に流行りのアイドルやアニメの話でも、「深いな」と感じさせる人はいます。

 タレントのタモリ氏が「日本坂道学会」(自称)という学会を設立していると知り、著書『新訂版 タモリのTOKYO坂道美学入門』(講談社)を読んでみました。
 この本のまえがきは、タモリ氏が東京に初めて来たとき、なんと坂道の多い所だと感じたこと、生まれ育った家が長い坂道の途中にあったことに触れ、こう続きます。

人間の思考、思想は、要約すると傾斜の思想と平地の思想に大別することができる。平地の思考のそれはハイデッガーである。

 “坂”ひとつでこれほどの話ができる人がいるというのは驚きでした。
 これを聞いたある作家が、「傾斜について対談がしたい」と申し入れたほどだそうです。
 もちろん、先ほどもお伝えしたように、哲学の話をすればいいわけではありません。

 哲学にしろ、坂にしろ、アイドルにしろ、どう掘り下げるかが肝心なのです。

安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。Twitter:@Books_Apps