頭のいい人が話す前に考えていること』を上梓した安達裕哉氏は、大学院を卒業後、コミュニケーションが苦手だったにもかかわらず、ひょんなことから経営コンサルティング会社に入社しました。そこで優秀なコンサルタントだった上司から「話し方がうまくなる必要はない」と言われ、かわりに話す前に“ちゃんと考える”ことを徹底されたと言います。「コミュニケーション能力」と「知性」が同時に求められるコンサルタント。理系一辺倒で、口下手だった安達氏がコンサル歴22年でたどり着いたコミュニケーションの結論とは!?

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

「型に当てはめれば伝わる」のは本当か?

 書店のビジネス書コーナーには、たくさんの話し方本が並んでいます。真面目な人ほど、これらの話し方の本を読んで、話し方を変えようとします。

 私も、話し方や雑談力、説明力の本を買って読みましたが、これらの多くには“型”や“ルール”が載っています。
 この型に当てはめるだけで、伝わりそうな気がします。

 でも、実際にやってみると、反応はイマイチ……。
 伝わってるのか、伝わっていないのか……。
 まちがいなく、心は動いていない……。

 ということがよく起こります。
 話し方の本を読んでも、それっぽい話ができたとしても、伝わらない。人の心を動かせない。

 なぜでしょうか?

 話がうまい人の話を真似ても、話がうまい人と同じ反応を得られるわけではありません。
 型に当てはめると、それらしい話し方ができて、ちゃんと考えたような気になります。
 しかし本当のところは、型に当てはめるだけでは考えたことにならないのです。

 “型に当てはめるだけで伝わるようになる”という謳い文句は、“型に当てはめるだけでいいので、考える手間が省けます”という意味だと思っていいでしょう。

 話し方の本を読んで型を手に入れると、考えたような気になっているだけで、ほんとうは自分で考えていない。

 つまり、話し方本ばかり読んでいると、どんどん考えなくなる可能性があるのです

 たとえば、型に当てはめて、一見見栄えの良いプレゼンができたとしても、ちゃんと考えていないと、その後の質問にうまく答えられず、ボロが出ます。

 信頼が生まれるのは、プレゼンがうまくできた瞬間ではありません。プレゼンの後の双方向のコミュニケーションによって生まれます。セミナーも満足度が高いのは「質疑応答」の時間を長くとり、お客さんとのやりとりを濃くしたときです。そこでちゃんと考えているか考えていないかの差が生まれるのです。

雑にできない「雑談」なんてしなくていい

 コピーライターの谷山雅計氏は、『広告コピーってこう書くんだ!読本』の中で「企画書だけうまくなってはいけない」と言います。

 いい企画を作れる能力が自分にないうちに、体裁のいい企画書を書こうとすると、「実際には考えてもいないことをさも考えたかのように書いてみたり、取りつくろったりしてしまいかねない」そうです。谷山氏は、とにかく、まずはいい企画を考える能力を身につけることが大切だ、と言います。

 話し方も同様です。
 説明力の本には、30~40もの説明の型が書いてあることがありますが、そんなに型を覚えるくらいなら、他に覚えたほうがいいものはたくさんあります。

 また、とある雑談の本には60ものルールが載っていました。そんなにルールのある会話は、“雑”談ではありません。雑にできない雑談なんて、別にしなくていいと思います。

 もちろん、雑談からアイデアが生まれたり、相手との思わぬ共通点が見つかって盛り上がったりすることもあります。ただ、そういった密度の高い雑談ができるのは、それまでのコミュニケーションや普段考えたことの蓄積があってこそです。

 噺家や、セミナー講師など、話すこと自体を本職とする人は別にして、一般の人は、ちゃんと考えることができていれば、ただ考えたことを話すだけでいいのです。型やルールを何十個も覚える必要はありません。

 もちろん、話し方の本を読む意味がないわけではありません。ちゃんと考えた上で、話し方の本を読んで話し方を工夫すればより伝わる可能性は高まります。

 ただ、もし、あなたがコミュニケーションに苦手意識があるなら、話し方の本を読んでも何も変わらなかったと感じているなら、話し方を変えるのではなく、考え方を変えることを意識してみてはいかがでしょうか?

 私自身、「話し方がうまくなる必要はない」と上司からアドバイスをもらい、話す前の考え方を徹底的に叩き込まれたことで、話し方で悩むことはいっさいなくなりました。

 コミュニケーションの本質は、一見「話し方」にあるように思われますが、むしろ「話し方以外にある」と言っていいでしょう。

(※本原稿は『頭のいい人が話す前に考えていること』を抜粋・再編集したものです)

安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。
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