心理的反発の抑止策になる
「反発しそうな人を仲間にする」戦略とは
本書では別の例として、組織心理学者のアダム・グラント氏が行った実験も紹介されている。ある大学の卒業生に、母校への寄付をお願いするメールを、3パターンに分けて送った実験だ。
一つ目は「あなたからの寄付で学生や教職員の生活が変わる可能性があります」という、利他の精神に訴えるパターン。二つ目は「寄付してくださった卒業生の皆さんは、いい気分になったとおっしゃっています」と、寄付する側の利己心を刺激するパターン。三つ目は、一つ目と二つ目の両方を伝えたパターンだ。
結果、最も寄付が少なかったのは、三つ目だった。グラント氏の分析によると、三つ目のメールは、「寄付をさせたい」という意図があからさまだったからだという。「あざとさ」が敗因だったようだ。
このような心理的反発への対策として有効なのが、冒頭のマスク着用のくだりで言及した「自己説得」だ。強要、強制されるのではなく、自分の意思で納得して変化に賛同したという感覚を持たせる、ということだ。
その一例に「コ・デザイン」のアプローチがある。デザイン業界で使われる用語で、利害関係者と協働して創造活動を行うことを指す。
つまり、商品開発や業務改善といった「変化」のプロセスに、他部署や経営陣、顧客などを参加させ、アイデアを出し合ったりする。それによって、抵抗する可能性のある人たちを「当事者」に変えてしまうのだ。
そうした人々が「当事者」として議論に参加し、アイデア出しや意思決定に貢献した場合は、「新しいやり方(変化)を強制された」というマイナスの感情は減るだろう。
ビジネスの世界で抵抗を抑えるには、「反発しそうな人を仲間にする」が重要なキーワードになりそうだ。
本書を参考に、「抵抗」を乗り越え、常に新しい可能性を探るマインドセットと方法論を、ぜひ身につけていただきたい。
(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)