視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、保守的で杓子定規だと思われがちですが、意外にもイノベーションにもつながる公務員の「お役所仕事」を紹介した書籍です。
省力化やイノベーションに役立つ
公務員の「守りのテクニック」
まもなく春になる。引っ越しなど、何かと役所に手続きに行く機会が増える季節だ。窓口が混み合って待たされてイラついたり、職員の対応や態度に腹を立てる人がいたりするのも、おなじみの光景だ。
だが最近は、杓子定規で木で鼻をくくったような、典型的な「お役所対応」は減ったような気がする。SNSでの拡散・炎上を恐れて、地域住民の対応マニュアルがしっかり作られている可能性もありそうだ。
今回取り上げる『お役所仕事は最強の仕事術である』では、そんな対応マニュアルに匹敵するような、公務員が日々の仕事の中で身につけた「守りのテクニック」の数々が紹介されている。著者の秋田将人氏は、30年以上自治体に勤務し、定年前に管理職として退職した著述家だ。
「守り」というのは、事前にトラブルを防いだり、クレームに対応したりすることを指す。テクニックというのは、具体的には「住民から苦情を言われてもどうにか納得してもらう」「議員から『調整に時間がかかる』と言われたり、有益とは思えない提案をされたりしてもうまくかわす」といったものだ。
ところで、本連載のテーマは「イノベーション的発想を磨く」だ。「お役所仕事なんてイノベーションの対極にあるのでは」と首をかしげる人がいるかもしれない。だが、イノベーションにとって「守りのテクニック」は大いに役に立つのだ。
よく知られているように、かのスティーブ・ジョブズは、いつでも黒いタートルネックのセーターを着ていた。お金持ちなのにどうしてかというと、毎日服を選ぶのに頭を使いたくなかったからだという。重要な意思決定に備えて「省力化」を図っていたというのだ。
われわれの日常的な仕事でも、「時間と労力の無駄だな」と思うような雑事は少なくないはずだ。些細(ささい)かつ理不尽な顧客のクレーム対応などは、その最たるものだ。そんな不必要なことに神経をすり減らし、無駄な時間を要するケースを防ぐ上で、本書の「守りのテクニック」がヒントになるのではないだろうか。
節約できた時間や労力は、イノベーションを起こすためのアイデア創出に回すことができるはずだ。
では、秋田氏直伝のクレーム対応術から紹介していこう。