「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

複利は「人類最大の発明」「宇宙で最強のちから」

 いまは銀行にお金を預けても「ゼロ金利」だが、「金利のある世界」では、預金は複利で増えていく。それに対してタンス預金では、いつまでたっても100円は100円のままだ。

よい選択も悪い選択も、「選択の結果は複利で累積する」イラスト:barks / PIXTA(ピクスタ)

 アインシュタインは複利を「人類最大の発明」「宇宙で最強のちから」だと述べたという。この「名言」は出典が曖昧で事実ではないようだが、それでも複利に強力なパワーがあることは間違いない。

 日本だけでなく世界的に経済格差が拡大している。その背後にはなにかの「陰謀」があるに違いないと主張するひともたくさんいる。陰謀の主体はこれまでずっと「ネオリベ(新自由主義)」だったが、最近は「資本主義」が人気のようだ。

 だが複利を理解すると、なにひとつ陰謀がなくても格差が拡大する理由を理解できる。必要な条件はたったひとつ、「平和」だ。

 イソップ寓話の「アリとキリギリス」を例に、10万円の貯金がある友だち2人がいて、1人は稼いだお金をすべて使ってしまい、もう1人は毎年10万円を貯金し、それを年利5%で運用したとしよう。キリギリス君は1円も貯金しないのだから、いつまでたっても銀行口座は10万円のままだ。それに対してアリ君の貯金は、10年で125万円、20年で330万円と増えていく。同じことを子ども、孫、ひ孫と続けていくと、アリ君一家の貯蓄は80年(4世代)でほぼ1億円に達する。それに対してキリギリス君一家は10万円のままなのだから、2人のあいだには1000倍の格差が生じたことになる。これが複利のパワーだ。

 このように「陰謀」などなくても、社会が安定していれば(銀行が80年にわたって預かったお金を運用してくれれば)格差は拡大していく。実際、人類の歴史を見ても、平和が続くと不平等が拡大することがわかっている。

 これと同じことは、人生の選択にも当てはまるだろう。よい選択をすると、改善した状況を前提として次のよりよい選択が可能になる。悪い選択をすれば、悪化した状況で次のより不利な選択をするしかなくなる。その結果、正のスパイラル(よい選択の連鎖)と負のスパイラル(悪い選択の連鎖)に二極化して、人生が天国と地獄に分かれるということが起きる。

 選択の結果は累積する

 というのは、ものすごく重要だ。このことを頭に叩き込んでおこう。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。