「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つのの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!
「重力問題」は原理的には解決できない
人生の選択において最初に理解すべきなのは、「重力問題」だ。スタンフォード大学でライフデザインの人気講座をもつビル・バーネットとデイヴ・エヴァンスは、次のような例で説明している。
「大問題を抱えて困っているの」
「どんな問題だい?」
「重力よ」
「重力?」
「そう。頭がおかしくなるの! どんどん体が重くなる。自転車で坂をのぼるのもきついし、どうしても消えてくれないのよ。どうしたらいいと思う?」
重力問題というのは、原理的に解決することができない問題だ。重力はなくせないから、「電動自転車を買えばどう?」などという対症療法のアドバイスしかできない。
バーネットとエヴァンスは、しょっちゅうこのような「重力問題」を耳にするという。
「アメリカ社会では詩人になっても食っていけないし、社会的な地位も低い。どうすればいいでしょう?」
「わたしが勤めている会社はファミリー企業で、五代前からずっと一族が経営しているんです。わたしのような外部の人間は絶対に幹部になれません。どうすればいいでしょう?」
「もう五年も失業中で、仕事を見つけるのは難しくなる一方です。不公平ですよ。どうすればいいでしょう?」
「学校に戻って医者になりたいのですが、最低一〇年はかかります。いまの年齢になって、そんな時間はかけられません。どうすればいいでしょう?」
これらはどれも、真の問題ではない。対処不可能な問題は「問題」ではなく、状況であり、環境であり、現実だ。「人間と現実が闘ったとき、勝つのは一〇〇パーセント現実のほうだ。現実は出し抜けない。現実はだませない。現実は自由自在に曲げられない」のだ。
だとしたら、(革命などで)世界を変えることに挑むよりも、現実を所与の(与えられた)条件として受け入れてしまった方がいい。