「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つのの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

わたしたちの人生は、ありとあらゆるトレードオフから構成されているイラスト :mstjahanara / PIXTA(ピクスタ)

「よく寝れば、よく考えられる。元気も出る。機嫌もよくなる」

 アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは早寝早起きを習慣とし、午前中は新聞を読んでのんびり過ごし、最初の会議は午前10時からで、午後5時には仕事を終える。そしてもっとも重要なのは、8時間寝ることだ。「よく寝れば、よく考えられる。元気も出る。機嫌もよくなる」としてこう述べる。

 たとえば、一日6時間寝たとしよう。またはもっと極端に、4時間睡眠だとしよう。すると4時間分、いわゆる「生産的な」時間が増える。それまで一日12時間働いていたとすると、それがいきなり4時間増えて16時間働くことができる。決定を下せる時間が33パーセント伸びることになる。それまでに下していた決定の数が100件なら、さらに33件の決定が下せる。

 だが、疲れていたりヘトヘトになっていたりで、決定の質が下がるとしたら、本当にその時間に価値はあるだろうか?

 もちろん、資産15兆円のベゾスと私はまったくちがう。グローバル企業の創業者ではないし、宇宙に行ったこともない(行きたいとも思わないが)。しかしそれでも、共通するものがある。それが「進化的・生物学的な制約」だ。

 人間が「生き物」である以上、貴族であろうが奴隷であろうが、あるいは大富豪だろうが貧困に喘いでいようが、すべてのひとに共通する条件がある。それは大きく3つに分けられるだろう。

① 物理的制約:夢やVR(ヴァーチャル・リアリティ)でないかぎり、人間は空を飛ぶことはできない。

② 資源制約:人生に投入できる資源にはきびしい制約がある。ジェフ・ベゾスはやりたいことを実現するためにほぼ無制限に金銭を投じることができるが、1日は24時間しかないし、成功しようと思えば1日8時間の睡眠が必要だ。―後述するように、近年の科学的知見では、仕事や勉強のパフォーマンスを最大化するのにもっとも重要なのは熟睡することだ。

③ 社会的制約:3つの制約のなかでもっともきびしいのがこれで、人間は社会(共同体)のなかに埋め込まれているため、つねに他者の評価を気にしていなくてはならない。ベゾスは大きな権力をもっているが、だからこそ社会の良識に反することはいっさいできない。このことは、その富でハーレムをつくろうとしたらなにが起きるのか考えてみればわかるだろう。