ハーバード大教授が語る「成功依存症」の問題点、お金や出世に固執すると不幸せに「幸福の追求」をテーマにハーバードビジネススクールで講演するアーサー・ブルックス教授 (C)Evgenia Eliseeva

幸せを掴むために努力を重ねる人は多い。だが、ハーバードビジネススクールのアーサー・ブルックス教授はお金、肩書、名誉をひたすら追い求める「成功依存症」に警鐘を鳴らす。人生の幸福度を高めるための絶対条件とは?(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

大谷翔平選手に憧れる若者に
今、知ってほしいこと

佐藤智恵 日本では、2023年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)の影響もあり、大谷翔平選手のようなスーパースターになることを夢見る若者が増えていて、国全体として「成功者」を称賛する風潮が強まっている印象を受けます。一方、ブルックス教授は『人生後半の戦略書』の中で、「幸せな人生を送るためには、富、権力、名声をひたすら追い求める成功依存症から抜け出さなくてはならない」と繰り返し述べています。その真意はどこにあるのでしょうか。また、いま野球選手になることをめざして努力している若者に対して、どのような助言をしますか。

アーサー・ブルックス もちろん若者がプロ野球選手になることを夢見て、鍛錬を積むこと自体は素晴らしいことです。そうした努力を否定するつもりは全くありません。その一方で、「どんなにがんばっても、野球選手として成功できる人はほんの一握りだ」という現実があることも知ってほしいと思います。つまり、ほとんどの人はどれだけ懸命に練習しても、大谷選手のようなスーパースターにはなれないのです。

 仮に一流の野球選手になれたとしても、永遠に第一線で活躍することなどできません。いずれは引退しなくてはならない日がやってきます。そして現役引退後には、野球選手以外の仕事をして生きる長い人生が待ち受けています。

 ところがいつまでも野球選手として成功することに固執したり、過去の栄光にしがみついていたりすると、自分の人生に不満を抱えたまま生きていくことになります。なぜ自分は野球選手として成功できないのかと悩み続け、結果的に不幸な人生を送ることになってしまうのです。