コロナがひと段落し、街に人が戻ってきました。居酒屋などの飲食店も、会社帰りのビジネスパーソンでにぎわうようになりました。この3年間、希薄だった関係性を深めようと、ここぞとばかりに部下を飲みに誘う上司世代も多いようです。しかし、もっと距離を縮めたい、もっと打ち解けたいと思っても、伝え方ひとつで部下が引いてしまったりするケースがあるようです。
シリーズ累計156万部突破のベストセラー『伝え方が9割』の著者である佐々木圭一さんに、気持ちよく誘いに乗ってもらうための「伝え方のコツ」を教えてもらいました。 (構成/伊藤理子 撮影/石郷友仁、小原孝博)
■Case1:「仕事終わりに飲みに行こうよ」
ある会社で部長職を務める人が、部下を飲みに誘ったそうです。
相手は2年前に新卒入社した若手社員。コロナ禍でなかなかコミュニケーションが取れずにいたことがずっと気になっていたのだそう。コロナが落ち着き、オフィス出社の機会が増えたことを受け、部下と親睦を深めようと「今晩空いてる?仕事終わりに飲みに行こうよ」と誘ったのだそうです。
すると、まったく想定外の言葉が返ってきたのです。
「え、なぜですか?」
この言葉は、部長を否定しているわけではなく、「なぜ飲みに行くのだろう?何かあるのかな?」という素直な気持ちの表れだとは思います。とはいえ、部長はこのように返されて面食らってしまい、気軽に誘うのが怖くなってしまったそうです。
部長が若手だった時代は、上司から飲みに誘われたら二つ返事でついていくものでした。そして、アフターファイブの「飲みニケーション」を通して普段のコミュニケーションも円滑になるので、飲み会は仕事に好影響を与えるものと認識されてもいました。
しかし、時代は変化しています。「上司に誘われたら飲みに行くもの」「飲み会は仕事にも役立つもの」と捉えている若手は、今やほとんどいません。「仕事でもないのに、わざわざ会社の人と飲みになんていきたくない」と思っている人が大半だと思います。
このケースの場合、お勧めしたいのはこのような伝え方です。
◎「餃子がすごくうまい店があるから、一緒に行かない?」
これは伝え方の技術「相手の好きなこと」を使った伝え方です。相手の好きなことをもとに伝えてあげると、聞き手に良い印象を与え、「イエス」と言いやすくなるのです。部下が餃子好きであればなおさら、「そこまでおいしいのであれば行ってみたいな」とごく自然に思ってもらえるでしょう。
また「一緒に行かない?」は、「チームワーク化」という伝え方の技術です。人は「一緒に〇〇しない?」と言われると嬉しくなり、してもいいかなと思えるものです。「なぜですか?」ではなく、「じゃあ行きます」という言葉を引き出しやすくなるでしょう。
一昔前までは、会社帰りの飲みニケーションも仕事と地続きと捉えられていましたが、今の若者は、仕事とプライベートを明確に分けていて、業務時間が終わったら、そこから先は完全にプライベートな時間です。その「プライベートな時間」に上司や先輩たちと過ごすことに対して、抵抗感を覚える人は少なくありません。したがって、部下に飲み会に来てほしいのであれば、「プライベートな時間だけれど、行ってみてもいいかな」と思ってもらえるような伝え方をする必要があります。
もう一つ、お勧めの伝え方をご紹介しておきましょう。
◎「松本君が来ないと盛り上がらないから、飲み会に来てくれない?」
ここでは「あなた限定」という伝え方の技術を使っています。人は特別扱いされると嬉しくなり、相手の要望に応えたいという気持ちになります。「松本君が来ないと盛り上がらない」と特別扱いされるとつい嬉しくなり、「行ってみようかな」と思ってもらえるようになるでしょう。