4月――新入社員の入社で、企業が活気にあふれる季節です。わが部署にも期待の新入が入ってくる、早く戦力になってほしい…と楽しみにしている人も多いのではないでしょうか? そんな気分に水を差すようですが、上司や先輩の伝え方ひとつで、新人が早期に組織になじみ、戦力化するかどうかが決まります。最悪の場合、「この会社は自分に合わない」と早々に辞めてしまう可能性だってあります。シリーズ累計156万部突破のベストセラー『伝え方が9割』、の著者、佐々木圭一さんが、新入社員といい関係性を築き、やる気を伸ばす「伝え方」を教えてくれました。(構成/伊藤理子 撮影/石郷友仁、小原孝博)

新入社員が初日で退職を決めた、上司のひと言とは?Photo: Adobe Stock

■Case1「やる気がないなら帰れ!」

 ある会社で、入社初日に遅刻してきた新人がいたそうです。電車の遅延など不可抗力によるものではなく、もともと少し時間にルーズなタイプだったようです。

 社長は彼に大きな期待を寄せていたものの、さすがに初日から遅刻は許されない。何と言って注意すればいいか悩んだ結果、少しガツンと言うべきだと考え、「やる気がないなら帰れ!」と彼に伝えました。

 これは社長が若いころ、遅刻してしまったときに上司から言われた言葉でした。驚きショックを受けると同時に、「なんて甘い気持ちで仕事をしていたんだろう。気を引き締めなければ!」と背筋を正すきっかけになったのだそう。この経験から、「彼の今後のためにも、びしっと言ってあげよう」と思ったのだとか。

 しかし「やる気がないなら帰れ!」と言われた当の本人は、なんとその言葉通り、その場で帰ってしまったのです。驚いた人事担当者が彼に連絡を取ると、こんな言葉が返ってきました。

「社長にあんなふうに言われて、僕はすごく傷つきました。僕は言われたとおり帰っただけです。こんなパワハラな会社だとは思っていなかったので、今日で辞めたいと思います」

 そして彼は本当に、入社初日に退職してしまいました。社長は本当に期待をかけていて、頑張ってほしいがために言った言葉でしたが、新入社員にはただのパワハラと受け止められてしまったという、非常に残念な結果になってしまいました。

 なぜ、このようなコミュニケーションミスが起こってしまったのか。50代の社長が若手だった時代とは、コミュニケーションの仕方が大きく変わっていることが大きな要因です。自分が言われたことをそのまま伝えても、今のいわゆるZ世代には残念ながら通用しません。自身の思いを正しく伝えたいのであれば、「Z世代に伝わるように伝えてあげる」工夫が必要になっているのです。

 このケースの場合、お勧めしたいのはこのような伝え方です。

◎「期待されているのに、遅刻みたいな仕事と関係のないところで評価を下げてしまったらもったいないよ」

 これは「認められたい欲」「嫌いなこと回避」という2つの伝え方の技術を使っています。人は期待されると、その期待に応えたくなるという心理が働きます。そして「遅刻みたいな仕事と関係のないところで評価を下げたらもったいない」と言われると、誰もが「確かにもったいないな…」と思えるもの。つまり、新入社員自身に「あ、遅刻しないほうがいいな」と思ってもらいやすい伝え方になっています。

 ガミガミ厳しく言うよりも、本人が「そうしたほうがいいな」と自然に思える伝え方のほうが、今の時代に合った伝え方なのです。

 今春入社の新人は、Z世代のど真ん中。世代の異なる彼らとどうコミュニケーションを取ればいいのか、頭を悩ませている上司・先輩世代も少なくないと思われます。今回のシリーズでは、前述のような伝え方に悩むシーンにおける「上手な伝え方」を、いくつかお伝えしていきたいと思います。