2020年。困難な時代だからこそ、元気が湧くコトバ、思わず笑顔になるような伝え方が求められています。シリーズ累計148万部突破の大ベストセラー『伝え方が9割』の著者、佐々木圭一氏がこの1年を振り返り、ステキな伝え方を選りすぐりました。このうち佐々木氏公式ツイッターの一般投票で選ばれたベスト10を発表いたします。(構成/杉直樹)
第10位「人間何を残すか。人を残すのが一番」
「ノムさん」こと野村克也さんが今年2月に亡くなりました。
野村さんといえば、プロ野球歴代2位の通算657本ホームランを放ち、さらに監督として3度の日本一を成しとげた名選手、名監督。
さらに、データ重視の「ID野球」をかかげ、プロ野球の常識を変えた功績もあります。そんな野村さんが引退したときに語ったコトバ。それがこちら。
「人間何を残すか。人を残すのが一番。少しは野球界に貢献できたかな」
江夏豊選手、田中将大投手、古田敦也選手……野村監督がそだてた選手の多さと顔ぶれの豪華さが、そのコトバをしっかりと裏づけています。
他球団を追い出された選手をふたたび輝かせる手腕から、「野村再生工場」のコトバも生んだ野村監督。訃報に触れた田中投手は
「野球とは何かを一から教えていただきました。僕の野球人生における最大の幸運の一つです」
と別れを惜しみました。ノムさんとマー君の、強い、強いきずなに心を打たれた方も多かったことでしょう。
第9位「男は山手線。ちょっと待ったら次が来る」
2020年新春。女優の剛力彩芽さんが、バラエティ番組で共演したバイオリニストの高嶋ちさ子さんから恋のアドバイスを受けました。
剛力さんと言えば、何かと取りざたされた彼と別れてまだ間もないころ。共演の方々は色々と気づかい、慎重に言葉を選んだことでしょう。
そんな最中でした。高嶋さんが痛快な恋の助言を放ちます。
「男は山手線って言うんだよ。ちょっと待ったら次が来る」
男は山手線!!! 間違いなく空気を一変する威力がありました。
斬新で、語呂もいい。端的で、インパクトも抜群でした。
ふさぎ込んでも始まらない。まずは「ホームに立ってみる」。魅力的な男は世界にたくさんいるのだから、ということなのでしょう。その後も高嶋さんは
「男は踏みつけてなんぼ」
「男に振り回される人生って本当にやめたほうが良い、振り回すくらいじゃないと」
と“男前な”アドバイスを連発。それを聞いて、気持ちが上向いた女性が多かったに違いありません。
第8位「どんなメッセージを受け取った?」
9月、テニスの大坂なおみ選手が四大大会の全米オープンを制しました。
劣勢だった試合を見事に立てなおし、本物の強さを見せつけました。ところが、注目を浴びたのはプレーだけではなかった。記憶に残っている方も多いことでしょう。
「7枚のマスク」です。
大坂選手は、黒人が白人警官の暴力で犠牲となったことを意識し、1回戦から決勝までの7試合すべてで、黒人の名前入りマスクを着けて臨みました。「人種差別反対」をはっきりと示したのです。優勝インタビューで
「マスクで伝えたかったメッセージは?」
と問われると、
「あなたはどんなメッセージを受け取りましたか?」
と逆質問。「私はあなた方が何を受け取ったかに興味があります。より多くの人がこのことを語るきっかけになれば」と続けました。たしかに、やり方には一部、批判もよせられました。それでも、すべての試合を勝ちすすみ、7人全員の犠牲者の名前を世界に発信した大坂選手。こちらが、その7人の名前です。
BREONNA TAYLOR
ELIJAH MCCLAIN
AHMAUD ARBERY
TRAYVON MARTIN
GEORGE FLOYD
PHILANDO CASTILE
TAMIR RICE
7人はただの数字ではなく、血の通ったひとりの人間だった。あたりまえだけれども、忘れがちなことに、彼女は改めて思いを寄せるきっかけをあたえてくれました。
大会を制したあと、コートであお向けになり、広い空を見上げた大坂選手。その姿からは、技術的な強さだけではない、精神的な成長も、たしかに垣間みることができました。