日本を代表するグロース株であるエムスリーがけん引する医療IT。急落後でもエムスリーの株価は上場来30倍であり、10倍株候補を探すなら必見の業界だ。デジタル化の加速で医療IT業界の裾野は拡大しており、1強に待ったをかけるようにベンチャー企業も続々と参入している。特集『円安・金利高・インフレで明暗くっきり! 株価・給料・再編 5年後の業界地図』(全24回)の#5では、人材の採用を強化して再加速を目指すエムスリー、新たな極の構築を目指すJMDCを中心に「合従連衡の先」を大胆予測する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
※2022年6月22日に公開した有料会員向け記事を、期間限定で無料公開!全ての内容は取材当時のままです。なお、7月中旬から特集『5年後の業界地図2023年版』がスタートします。ご期待ください!
2桁増益企業がそろう成長セクター
足元は医療データ利活用が急成長
「エムスリー1強体制を崩すのはどこか」――。
成長企業がそろう医療ITセクター。その代表企業がこの10年間、日本を代表するグロース(成長)株として脚光を浴び続けてきたエムスリーだ。
国内医師の9割超に当たる30万人以上が登録する医師会員向けプラットフォームの「m3.com」がけん引して、2022年3月期も23%増収と高成長を維持している。
ただし、足元は医師会員サイトのコロナ特需が一巡。同社の主力事業の製薬マーケティング支援の伸びが鈍化している。
日本の医療ITの上場企業は、医師会員プラットフォームをベースとする製薬企業向けのマーケティング支援と医療データ利活用の二つに注目したい。製薬マーケティング支援は医師への情報提供、MR(医薬情報担当者)の生産性改善、医療データは患者の動態分析、製薬企業の業務効率化に活用される。
共に中長期で期待できる領域だが、直近は「製薬マーケティング支援の伸びが鈍化する一方、医療データ利活用は高成長が持続」(SMBC日興証券の徳本進之介アナリスト)しているのだ。
製薬マーケティング支援の有力企業はエムスリーを筆頭にメドピアやケアネット。医療ビッグデータの有力企業はJMDCやメディカル・データ・ビジョン(MDV)である。
では、単純に前者が失速して、後者が勝ち組になる構図かというと、そんな単純なものではない。デジタル化の加速で医療IT業界の裾野は拡大しており、100社以上のベンチャー企業が事業を展開すると同時に「機能連携、合従連衡が加速」(徳本氏)。業界をけん引してきたエムスリーも、成長領域のベンチャーへの出資、M&Aで取り込むなど再加速へ準備を進めているからだ。
実際、多くの医療ITは旺盛な需要に対して人手が足りていない。各社とも決算説明資料では採用の強化をアピールしている。成長セクターだけあり、外資系コンサルティング会社や金融など高収入職種からの転職も目立つ。
偶然ではあるが、エムスリーの谷村格社長、JMDCの松島陽介社長もマッキンゼー・アンド・カンパニー出身で、2社共に市場からの評価が高い。年収も右肩上がりの企業が多く、エムスリーの平均年収は5年前比で19%も増加している。
金利上昇局面は医療ITのような成長セクターには逆風だが、急落後でもエムスリーの株価は上場来30倍になっている。売りたたかれている今は、将来の10倍株(テンバガー)の発掘には、最適なタイミングかもしれない。
5年後に覇権を握る企業はどこか。徳本氏は「鍵となるのはプラットフォーム化だ」と指摘する。次ページでは人材採用を強化して再加速を目指すエムスリー、新たな極の構築を目指すJMDCを中心に「合従連衡の先」を大胆に予測した。