株価・給料・再編 5年後の業界地図#17Photo:PIXTA

医薬品セクターは不景気に強く、業界全体が高い給料で知られていたが、株価は「パイプライン(新薬候補)」次第で上下に大きく動く時代に突入。今後5年間で序列が変化する可能性がある。特集『円安・金利高・インフレで明暗くっきり! 株価・給料・再編 5年後の業界地図』(全24回)の#17では、パイプラインが豊富な第一三共、ロシュとの提携で業績を伸ばした中外製薬、さらには巻き返しを狙う元王者の武田薬品工業など主要プレーヤーの今後5年を予測する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)

第一三共が時価総額首位に
勢力図が大きく変化する時代に

「第一三共が中外製薬を抜き時価総額首位に」――。

 一般に株式市場では、医薬品セクターは業績変動の少ないディフェンシブセクターに分類されている。景気との相関が小さく、今年、来年の業績については事前予想が大きく外れないことが多いからだ。

 だが、株価のボラティリティ(価格変動)は小さくない。医薬品セクターでは長期間にわたり武田薬品工業が時価総額のトップに君臨していたが、2020年2月に中外製薬が逆転。さらに22年以降は第一三共が時価総額首位に躍り出るなど、勢力図が大きく変化している。

「第一三共はインドの製薬企業、ランバクシー・ラボラトリーズの買収で大失敗したが中山讓治社長の時代に処理。がん領域の会社になると宣言したときは、みんな半信半疑で『またか……』と思ったが、見事に復活した。中外製薬は02年に世界トップ級のスイスの製薬企業、ロシュと提携した効果で業績を伸ばしてきた」(クレディ・スイス証券の酒井文義シニアアナリスト)

 今後、国内は毎年薬価改定、市場拡大再算定(年間販売額が予想販売額の一定倍数を超えた場合などには薬価改定時に価格をさらに引き下げる)が逆風になるという声もある。だが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の熊谷直美シニアアナリストは「医薬品はグローバルな業種。国内を強く意識すると違う結論が出やすい」と指摘する。

「業績や株価の予想をマクロ環境から入ると失敗する。為替、資源価格、金利水準の影響度も非常に小さい。大ざっぱに言えば景気に関係なく病気になり病院へ行くわけで、パフォーマンスが良かった銘柄、悪かった銘柄には全て理由がある。それはマクロではなく、個別企業の問題と考えていい。非常に個別性が強い業種であり、だからこそ投資という意味では面白い」(熊谷氏)

 医薬品セクター大手の平均年収は1000万円以上(次ページ図参照)と高水準で横並びである。一方、コロナ禍では武田薬品やアステラス製薬がMR(医薬情報担当者)をリストラした。今後は年収格差も開く可能性があるだろう。

 今後5年を想定したときに、グローバル競争を勝ち抜き伸びる企業はどこか。投資をする場合、「個別性が強い業種」だけに、銘柄選びで明暗が大きく分かれる可能性が高い。

 次ぺージでは、承認取得が複数進行中の大型薬の具体的な名前や、明暗が分かれる五つの理由を企業名、薬の名前ではっきりと解説。主要プレーヤーの5年後を予測していく。

図表:医薬品新薬候補の充実度の注目