子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

子どもの「らしさ」と親の思惑、どう折り合いをつけるか

 これまでの記事で、優秀な子どもたちが身につけている”3つの柱”のうち、「よい習慣」「思考力」についてご紹介してきました。

 今回は3つ目の「アイデンティティの確立」についてお伝えします。

 「アイデンティティ」の定義は意見が分かれますが、私の解釈では「自分は何者で、何を大切にし、どう生きたいのか」を見つけること。

 言葉を換えると、自分の立ち位置、価値観、ライフスタイルを確立することです。「ゆるぎない自分らしさ」を持つことで、人生に迷いがなく、選択、決断、努力を続けていくことができます。

 このアイデンティティの問題は非常に難しく、子育て相談に来た方に、「子どもが20歳になった時、どうなっていてもらいたいですか?」と質問をすると、こんな回答が返ってきます。

・「自分の好きなこと・やりたいことを見つけてもらいたい」
・「自分の夢に向かって突き進んでいる人になってもらいたい」
・「自分で考え、行動できる人になってもらいたい」

 みなさん我が子に「自分らしい生き方」をしてもらいたいと願っていることがわかります。

 その回答を受け、「わかりました。では、ご相談内容は何でしょうか?」そう尋ねると、返ってくるのは次のようなフレーズです。

 ・「中学受験を考えているのですが、どうしたらいいでしょうか?」
 ・「まだ子どもは小学生なのですが、将来◯◯大学に合格させるために、今、何をさせたらいいですか?」
 ・「子どもに英語を身につけさせたいのですが、どんな学校がいいですか?」

 このように、「受験」に関する相談がほとんどなのです。

 どの親も子どもに「自分のやりたいことを見つけて、自分らしい人生を歩んでほしい」という理想を持っています。ただ、いざ現実を考えると「いい学校に入って、いい企業に就職して、安定した人生を歩んでほしい」という気持ちが、あらわれてしまうのです。

 学歴は人生の保険のようなものです。どの親も子どもに与えておきたい(いい大学に入っておいてもらいたい)と願うのは自然なことでしょう。

 しかし、目先の受験に踊らされて「学歴主義」に陥ることは、子どもの本来の能力をつぶすことになりかねません。

 子ども時代を教科書知識の詰め込みや受験勉強だけで過ごしてしまうと、「習慣力」が満足に育ちませんし、自分の頭で考えるための「思考力」も身につかず、その結果「アイデンティティ」が確立できなくなるケースが多いのです。

 特に韓国や中国などのアジア圏はその傾向が強く、「勉強ができればいい」という学歴偏重になった結果、子どもが自分自身と向き合うことなく大人になり、「自分のやりたいこと」「自分の生き方」の答えがわからない、という問題によく出合います。

 本来、子どもがやりたいことを見つけるには、教科書から離れる必要があります。

 スポーツや音楽に真剣に取り組んだり、アートにふれたり、友だちとぶつかり合ったり、文化や年齢の異なる人と関わり合ったり……。

 また、その中で失敗と成功を体験し、泣いたり笑ったり、悩んだり解決したりといった試行錯誤を繰り返すこと、そしてそこから生まれた「強み(特性)」が必要なのです。

 賢い親たちは学校の勉強と同じくらい、スポーツやボランティア活動、芸術分野にふれる時間を重視しています。

 それは、学校や塾といったコミュニティーを離れたところで作られる成功体験や人間関係が子どもの特性を高め、自信を大きくしてくれることを知っているからなのです。

 (本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)