いま、イェール大学の学生たちがこぞって詰めかけ、夢中で学んでいる一つの講義がある。その名も「シンキング(Thinking)」。AIとは異なる「人間の思考」ならではの特性を存分に学べる「思考教室」だ。このたびその内容をもとにまとめた書籍、『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』が刊行された。世界トップクラスの知的エリートたちが、理性の「穴」を埋めるために殺到するその内容とは? 同書から特別に一部を公開する。

【賢くても間違う】「本当に頭が柔らかい人」だけがわかる、たった1つの質問Photo: Adobe Stock

「ただ賢い」だけではわからない

 私の確証バイアスに関する講義では、さまざまな例を使って学生を質問攻めにする。そして講義の最後にクイズを出題する(注:確証バイアスとは「自分が信じていることに合致する情報ばかり集めてしまう傾向のこと。本書参照)

 たとえば、キース・スタノヴィッチ、リチャード・ウェスト、マギー・トプラクによる共著『合理性の割合──合理的思考を試す』(未邦訳)からの質問は、確証バイアスに気づくことの難しさを教えてくれるものだ。以下に紹介しよう。

 自己肯定感とリーダーとしての資質の関係について調べている研究者が、リーダーとしての資質が高い人を1000人集めた。そのうちの990人は自己肯定感が高く、10人は低い。ほかに情報はないものとした場合、これらのデータから導き出せる最良の結論は次のどれか?

①自己肯定感とリーダーとしての資質は、強固な正比例の関係にある。
②自己肯定感とリーダーとしての資質は、強固な反比例の関係にある。
③自己肯定感とリーダーとしての資質に関連性は一切ない。
④これらのデータから導き出せる結論は何もない。

 ①を選んだ人は、私のクラスの学生の3分の1と同じだ。

 これは不正解である。

 学生の出来が悪いと言いたいのではない。間違えた学生のなかには、神童と呼ばれた子もいれば、高校の卒業生総代を務めた子、数学の全米チャンピオンやディベートの全国大会優勝者もいた。それに、彼らはGPA(成績平均点)4.0を目指しているので、このクイズに正解したい気持ちもとても強い。それでもなお、彼らを誤った方向に誘導する確証バイアスの力は強く、確証バイアスについて学習した直後であっても、その影響から逃れられないのだ。

「自己肯定感の高さがリーダーとしての資質に関係する」という最初の仮説には説得力がある。それに加えて、提示されているデータの99パーセントが、その仮説を支持しているようにも思える。

 では、なぜこの仮説が誤りとなるのか? 

 問題に登場する研究者は、「リーダーとしての資質が乏しい人」に関するデータを何ひとつ提示していないのだ。仮に、リーダーとしての資質に乏しい人々についても、99パーセントが自己肯定感が高ければ、リーダーとしての資質と自己肯定感に正比例の関係があるとの結論は導き出せない。

 この研究者はその種のデータを集めなかった。よって、クイズの正解は④となる。

 提示されているデータからは、いかなる結論も導き出すことはできない。

(本稿は書籍『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』から一部を抜粋して掲載しています)