「安い、やすーい」という超ベタな掛け声と、棒読みのセリフが続く通販番組がある。しかし、これをあなどってはいけない。実は、「最先端の販売戦略」が組み込まれた巧妙なCMとみなすことができるからだ。その理由を解説しよう。(イトモス研究所所長 小倉健一)
ジャパネットたかたの完成度に及ばずも
「補って余りあるテクニック」とは
知る人ぞ知る「夢グループ」という会社がある。夢グループとは、テレビショッピングなどの通信販売事業を主に行う日本の企業である。
昭和のヒット曲「あずさ2号」で知られる兄弟デュオ「狩人」のマネジメントを担当するため芸能事務所として2003年に設立された後、通販事業に進出した。現在は、家電や健康グッズなどの商品をテレビやインターネットで販売している。
また、コンサートプロモーターとして、細川たかし氏や橋幸夫氏、保科有里氏などの歌手のライブを開催している。夢レコードというレコードレーベルも運営しており、CDの制作も行っている。
そんな夢グループの社長は石田重廣氏である。22年には保科氏とデュエットで歌手デビューした。夢グループは、通信販売業界で独自のスタイルを確立し、多くのファンを獲得している企業である。
同社のホームページによれば、売上高は18年度で110億円、従業員は90人(15年5月)だという。
今回、そんな全国の注目が集まる夢グループのテレビショッピングを解剖してみたい。夢グループを知らないという人には「何のこっちゃ」という話だが、YouTubeなどでもテレビショッピングの動画が公開されているので、一度見てみてほしい(https://yume-gr.jp/lp/tvshopping)。
石田社長と、歌手の保科氏が、低価格の商品を棒読みの掛け合いで紹介する謎の光景に、戸惑いを隠せないこと、うけあいだ。ジャパネットたかたの通販番組には遠く及ばない完成度といえば分かりやすいだろうか。
商品も、この令和の時代に、テレビとDVDがセットになった「夢ポータブル多機能プレイヤー」(1万円)というラインナップだ。この多機能プレイヤーは「CDも視聴可能!」ということがウリになっている……。
私は先日、企業取材のためにDVDを資料として見なくてはいけなかったが、自宅には再生する機器を持っておらず、探し回って結局、友人のクルマに搭載されたカーナビで視聴することになった。CDで音楽を聞いたのは、もういつの頃だったか覚えてもいない。なぜ、動画をスマートフォンで見ないのだろうか。不思議でならない。
さて、この棒読み掛け合いの通販番組にも、実は通販ノウハウが満載されているので、きっとお客さんはいるのだろうと感じる。こんな棒読みですら補ってあまりあるテクニックとは何か、一つずつ解説していこうと思う。