タンパク質の摂りすぎは早死にを招く?肥満は実は健康に悪いわけではない?シドニー大学の世界的栄養学者2人が、マウス数百匹を使った5年におよぶ実験で明らかにした、食事が寿命と健康に与える直接的影響とは――!?本稿は、デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン『食欲人』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。
生物の老化は
食事で調整可能!
読者の中には、すでに「テロメア」をご存じの人もいるだろう。寿命を延ばし老化を遅らせる役割を担うことから、テロメアはしばらく前から人気と名声を博している。
テロメアとは染色体の末端にあるキャップ状の構造で、細胞複製に欠かせない重要な要素が細胞分裂時にほつれてしまうのを防いでいる。
加齢とともに、傷ついて古くなった細胞の入れ替えが何度もくり返されるうちに、テロメアはどんどん短くなり、ついには染色体の末端部分が露出し、細胞分裂の際に複製エラーを犯すようになる。
やがてエラーが蓄積して、様々な組織や器官の老化を引き起こすのだ。
寿命をマッピングしたグラフをもとに、次の予測を立てることができた。
もし私たちが発見した餌に対する反応のパターンが、その根底にある老化の生物学的機構の違いから生じているのなら、マウスのテロメアの長さのマップの基本的な形状は、寿命のマップと同じになるはずだ。
ではどうだったのか?
低タンパク質/高炭水化物食のマウスは、テロメアがより長く、より長生きした。高タンパク質/低炭水化物食のマウスは、テロメアと寿命がより短かった。
思ったとおりだ――この結果は、テロメアに関する一般常識(長いほどよい)を裏づけるとともに、低タンパク質と高炭水化物の組み合わせが長寿をもたらすという私たちの予想とも一致していた。
続いて、主要栄養素の摂取バランスと、ほかの老化を計るマーカー(指標)、たとえば免疫機能、主要な栄養シグナル経路の活性度、ミトコンドリア機能などとの関係を測定した。
これらのパターンはすべて一致した。つまり、食餌を利用して、老化の基本的な生物学的プロセスを強めたり弱めたりできる可能性があるということだ。
もし本当ならすごいことになる。
ヒト(やマウス、ハエ、それにイースト細胞)の生理的機構の中心には、2つの対立する生化学的経路がある。これらの経路は、すべての動物のまったく異なる2つの生命の「成果」を導いている。
1つ目を「長寿経路」――わかりやすくいうと「状況が好転するまで身を潜めてじっと待て」経路――もう1つを「成長・繁殖経路」――「チャンスを逃すな、あとは野となれ山となれ」経路――と呼ぼう。
重要な点として、これら2つのシステムは互いに抑制し合う関係にある。
一方が機能しているときは、もう一方は機能しない。食料と栄養が不足すると、長寿経路が作動し、成長・繁殖経路は停止する。細胞とDNAの修復・維持システムが活性化し、いつか世界が変化して食料が豊富になり、繁殖という進化上の目的を果たせるようになるまでの間、動物の健康を維持する。