親子関係の問題は、家庭という閉鎖的な空間で生じるものだからこそ、解決が難しいといえます。
外部の目には一見、理想的な家族に見えていても、実はその中にいる当事者にとっては地獄に等しい親子関係であるケースも多々あります。
自分にとって「害になる親」、つまり毒親からは逃げるしかない、とは言われますが、実際に毒親との絶縁は簡単なことではありません。絶縁してもなお追いかけてくる毒親、周囲からの残酷な言葉……ここでは実際に毒親と絶縁した経験を持つ著者が、同じ悩みを持つ人々へ苦しみから抜け出す糸口を綴った書籍『幸せになるには親を捨てるしかなかった』から抜粋し、再構成して紹介します。
幼少期の経験が
脳と遺伝子に影響する
『Fear In Love: Attachment, Abuse, and the Developing Brain』(1)(未邦訳)という論文の中で研究者たちは、子供の頃に心に傷を負ったりトラウマになったりするような経験をすると、脳の発達に影響が出ることを示しています。成長するにつれ発現する遺伝子に、親子の心理的隔たりが影響すると言うのです。
幼少期の経験がどのように脳を変えるかについてはまだ明確な研究結果を得られていないようですが、1つ確かなのは、幼少期の経験に反応して、脳の構造、遺伝子の発現や機能が変わるということです。
ベッセル・ヴァン・デア・コーク氏は、『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』(2)という素晴らしい著書の中で、子供は生物的本能として愛着を持とうとする、という理論を支持しています。
親もしくは養育者が愛情深く世話をしてくれる人か、それとも子供を拒絶して遠ざけたり、虐待したりするような無神経な人かは関係ありません。子供は何とかして欲求を満たそうと、手の届く範囲で最適なスタイルを習得します。
幼児期の愛着への欲求に、遺伝子がどう反応するか、自分で制御することなどできません。ヴァン・デア・コーク氏は、「恐怖は愛着への欲求を駆り立てる。たとえそれを与えてくれる存在が同時に恐怖の源だったとしても」と言っています。
たとえほとんど報われなかったり、完全に拒絶されたりしたとしても、あなたには養育者に愛着を求める以外、選択肢がなかったのです。
ヴァン・デア・コーク氏の研究はさらに、幼少期に経験した不確実性がストレスの感じ方にも多大な影響を与えると示しています。
守ってくれる人がいない状況で、子供が安心してリラックスできるはずもありません。そういう人は大人になってからも、ほんの少しでも危険を感じるとストレス反応が起こります。
ストレス反応が起こると、動揺して脳の神経活動が乱れたまま活性化し、大量のストレスホルモンが分泌されます。それによって心理的および身体的不快感や苦痛に加え、吐き気、息切れ、高血圧などの症状が表れ、また高血圧によって攻撃的あるいは衝動的な行動をとることもあります。
これらの反応が表れると、あなたは「パニックに陥った」と感じるでしょう。人生や愛といった理解不能なものに呑まれてしまい、振り回されすぎて力尽きてしまうかもしれません。
トラウマによって変質させられた脳からもたらされるこのような反応が、基礎的不安のもとになっています。
トラウマを抱えた脳、
癒やされた脳の特徴
トラウマというのは、自分でうまく処理できないほどの過度なストレスを感じる環境や状況に置かれることで発生します。つまり、そのような状況下で感情を消化し、立ち直ることなど、そもそも不可能だったのです。そして感情を消化できなかった結果、一生治ることのない傷が刻まれてしまったのです。
トラウマは、脳の奥深くにいつまでも居座り続け、消えることはありません。それゆえに、何かの拍子にいともたやすくよみがえるのです。