大人になると誰も教えてくれない、日本語の使い方を学びましょう。国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、「ら抜き言葉」と、それに類する問題を紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)
「ら抜き言葉」だけじゃない問題
・フリーランスは仕事の時間を自分で決めれる。
・何でもポジティブに考えれる人になりたい。
上の文の動詞が「ら抜き言葉」であることに気づきましたか。
「決める」という動詞を可能形にするときは「られる」を付けて「決められる」としますが、「ら」が抜けると「決めれる」になります。
「考える」という動詞を可能形にするときは「考えられる」としますが、「ら」が抜けると「考えれる」になります。
これが「ら抜き言葉」です。
・フリーランスは仕事の時間を自分で決められる。
・何でもポジティブに考えられる人になりたい。
「ら抜き言葉」は日本語に定着しています。
文字数が少ないほど自然な感じがし、「見れる」「着れる」「寝れる」はもちろん、「起きれる」「食べれる」「投げれる」ぐらいは自然でしょう。
「信じれる」「炒めれる」「試みれる」ぐらい長くなるとやや引っかかる人も出てくるかもしれませんが、なかには使っている人もいるでしょう。
「ら抜き言葉」は話し言葉ではふつうに使えますが、言語の変化にたいして保守的な書き言葉ではまだ違和感があるようで、とくにフォーマルな文章では避けたほうが賢明です。
「さ入れ言葉」
違和感があるのは「ら抜き言葉」にかぎりません。
ほかにも「さ入れ言葉」「れ足す言葉」「だ抜き言葉」があります。
本記事では、「さ入れ言葉」を確認します。
・明日は休日出勤の代休で、勤務を休まさせていただきます。
・事務手数料は一律15%でやらさせていただいています。
「さ入れ言葉」は、一般動詞に現れる「ら抜き言葉」とは異なり、五段動詞に現われます。
「させていただく」という形を使いたい場合、上一段動詞や下一段動詞であれば、「決めさせていただく」「考えさせていただく」のように「させていただく」を付ければよいのですが、五段動詞に機械的に「させていただく」をつけてしまうと、「休まさせていただく」「やらさせていただく」のように「さ」が過剰になってしまいます。
この過剰な「さ」にたいする違和感から「さ入れ言葉」と呼ばれます。
五段動詞の場合、「休ませていただく」「やらせていただく」で十分です。
・明日は休日出勤の代休で、勤務を休ませていただきます。
・事務手数料は一律15%でやらせていただいています。
また、もう一つの「さ入れ言葉」があります。
次の例文を読んで違和感はありませんか。
・メールの文面に配慮がなさすぎる。
・夜の地方都市は人が少なさすぎる。
・ラストシーンが切なさすぎる。
・日本人は自分がふだん使っている日本語を知らなさすぎる。
否定の「ない」という意味で働いているものは、「さ」を入れても不自然ではないのですが、「少ない」や「切ない」の「ない」は否定の「ない」ではないので、「さ」を入れると不自然となります。
一方、動詞+「ない」の場合、語形が短い「しなすぎる」「見なすぎる」「来なすぎる」は「しなさすぎる」「見なさすぎる」「来なさすぎる」と「さ」が入ったほうが自然ですが、五段動詞で語形が少しでも長くなると、「知らなすぎる」「飲まなすぎる」「読まなすぎる」という「さ」のない形のほうが、「知らなさすぎる」「飲まなさすぎる」「読まなさすぎる」よりも自然な印象を与えます。
・メールの文面に配慮がなさすぎる。(変更なし)
・夜の地方都市は人が少なすぎる。
・ラストシーンが切なすぎる。
・日本人は自分がふだん使っている日本語を知らなすぎる。
拙著『ていねいな文章大全』では、上述した「れ足す言葉」「だ抜き言葉」のほか、相手に誤解されない文章を書くためのポイントについて、108課目にわたって紹介しています。