カクマの少年とした約束

 少年は、カクマに新しくできた図書室へ僕を連れていった。毎日、ここへ来て、英語が上達するように本を読むのだという。
 棚にある本はわずかだった。ほとんどが1940年代や50年代に、大英帝国がケニアを支配していた頃の教科書だ。この時代に合ったもの、あるいは実用的な英語が学べるとはとても思えなかった。

 勉強をしたいと切望しながら、その助けとなるものがほとんどないことに、僕は衝撃を受けた。世界中の何百万の若者と同じように、少年もより良い暮らしを求めている。
 この子なら学校で優秀な成績をおさめ、生きていくために一生懸命に働くだろう。
 少年は、つらい環境にありながら、隣人にやさしく、自分のコミュニティに誇りをもっていた。アメリカ郊外にもし住んでいたならば、市議会議員や教育委員会の委員になったり、大統領選に立候補したりするかもしれない。

 彼はそうしたチャンスを得られるのだろうか。僕になにかできることはあるだろうか。

 「いい図書館だね」僕は言った。
 「だが、もっとたくさん本があったほうがいい。ニューヨークへ戻ったら、スポーツや科学や有名な人たちについての本を送ってあげる。きみの英語が上達するように、百科事典や辞書や小説やおもしろい雑誌を図書館に寄付しよう」

 僕は少年が笑顔で、ありがとう、と言うのを期待した。ところが、彼は、僕の言葉に当惑したように、肩をすくめた。

 「みんなそう言うんだ」少年は気まずそうに答えた。
 「本当だよ」僕は言った。「この部屋を本でいっぱいにしてあげるからね」

(3月11日に続く)


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  10のストーリー~

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目次

プロローグ  職を失って気づいた、やり残した10の「宿題」
宿題1  15年間音信普通のおばを探して会いに行く
宿題2  娘を失った友人に言えなかったお悔みの言葉を伝えよう
宿題3  30年以上前に借りたままになっている600ドル。彼は許してくれるだろうか
宿題4  9.11以来、気がかりだったパキスタン人の元ルームメイト
宿題5  僕をいじめたアイツをずっと憎んでたんだ
宿題6  高校時代の恩師にどうして「ありがとう」を言えなかったのか
宿題7  陽気なマットは偏狭な原理主義者に変わってしまったの?
宿題8  意外なところにあった、父さんとおじの関係修復の糸口
宿題9  仕事を口実に行かなかったお葬式
宿題10  難民キャンプで少年と交わした約束を今こそ果たそう!
エピローグ   人はいつでもやり直せる