猛烈仕事人間だった主人公は、「忙しい」を理由にたくさんの人間関係を捨ててきた。学生時代の友人の娘が亡くなったことを知りながら、お悔みの手紙一通出さなかった。よき理解者だった叔母が行方知れずになっても探そうともしなかった。卒業旅行の途中で「帰国したらすぐに返すから」といって友だちからお金を借りた。でも返さなかった。そうして旅行の思い出を語り合えるかけがえのない友だちを失った――。
どうして人を大切にできなかったのだろう。もう関係修復は不可能なのだろうか。
新刊『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』(リー・クラヴィッツ著)は、
リストラされたのを機に、捨ててきた人間関係を取り戻そうと決めた男の物語である。
彼は、関係を修復したい10人を選び、職探しをする代わりに1年かけて、再会を果たそうと決意する。
はたして彼は、大切な人との絆を結び直すことに成功するのだろうか。
『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』のなかからプロローグを掲載する。
突然のリストラ
一年ほど前から、職場の雰囲気が悪くなっていた。上司との間にできた溝は、深まるばかり。
なにが悪かったのかを特定するのは難しいが、かつて互いに抱いていた好意や信頼は徐々に消えていった。このままいけば、上司が僕をクビにするか、僕が辞めなければならなくなるか、どちらかのような気がした。
それを認めるのは難しかった。仕事が好きだったし、定年までこの職場で働くつもりでいたからだ。
時とともに状況は悪化し、上司に避けられ、自分が孤立していくのを感じた。状況を変えようと試みたが、なにをやってもうまくいかなかった。同僚の前では毅然とした態度を装い、やるべきことをやった。しかし、家にいるときは、ふてくされ、惨めな気持ちになり、子どもたちにあたった。
九月の最後の日曜日のことだった。妻のエリザベスと湖へ行き、カナダガンの群れが飛び立ち南へ向かうのを眺めながら、僕は言った。
「一緒に飛んでいきたいくらいだ」
「あなただったら、コンピュータを抱えて、飛びながら仕事をするんじゃない?」
エリザベスは答えた。
「明日、会社へ行きたくないな」
「わかってる」
エリザベスは僕の手に手を重ねた。「辞めどきなのかも」
僕は、これまでとは違う新しい道があるかもしれない、と感じはじめていた。
次の朝、出勤した途端、重役のひとりに、もうきみの席はないから、と言われた。会話はすぐに終わったし、廊下での出来事だったので、ただの冗談だと思った。しかし、冗談ではなかった。解雇されたのだ。
エリザベスに電話をした。彼女が電話を返してくるまで、数分はかかるだろう。ありとあらゆる感情が襲ってきた。呆然とし、怒りを覚えた。操られ、裏切られたような気がした。申し開きさえできず、裁かれ、判決を言い渡され、王国から追放されたのだ。
三人の小さな子どもたちに、どう説明すればいいのだろう。これまでいつも仕事ばかりしていた僕が、もう働かないことを。
エリザベスから電話があったとき、僕はひどく疲れていて、口もきけなかった。「気持ちはわかるわ」彼女は言った。「でも、二、三日もすれば、すばらしいことが起こったと思うようになるはずよ」彼女が正しいことを僕は願った。