農家が8割減って「イモが主食」はウソ→むしろ日本の農業に好都合なワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

今後、2050年にかけて国内の農業人口が8割も減少し、生産が激減し、必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれないという議論がある(『農家が8割減る日 「主食イモ」覚悟ある?』日本経済新聞2023年9月18日)。この記事は、かなりのところで、平野勝也・武川翼「2050年の国内農業生産を半減させないために」(三菱総合研究所マンスリーレビュー2022年12月号、2022.12.1)に依拠しており、これによると2020年から50年にかけて、農家経営体数は84%減少し、農業生産額は52%減少するという。しかし、私はこんなことにはならないと思う。その理由を説明しよう。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

販売額上位10%の農家に集まれば
生産性は飛躍的に上昇する

 農業人口の減少と農業生産をただ結び付けるのは誤りである。まず必要なのは、現状どのような農家がどれだけの農業生産を行っているかの認識である。図1は、2020年の農業センサス統計で、農産物販売金額規模別の経営体数を示したものである。

 なお、農林水産省の統計では、農家ではなくて経営体という言葉を使う。売り上げが1億円を超すような農家なら、経営体と言ってもいいだろうが、販売のない経営体や、売り上げが50万円未満の経営体もある。これを経営体と言うのは違和感があるが、本題とは関係がないので、これだけにしておく。

 図で青色の棒グラフは販売金額規模別の経営体数、オレンジ色の棒グラフは販売金額規模別の販売額である。直感的に明らかなように、販売金額の少ないところでは多くの経営体があり、販売金額の多いところでは経営体数は少ない。農産物の販売は、金額の多い経営体に集中している。数でいうと11.8%の経営体が、販売額の77.8%を占めている。すなわち、経営体が9割減っても、8割の生産物を維持できることになる。

 この11.8%の経営体とは、販売額が1000万円以上の経営体である。売り上げの半分を所得とみなせば、500万円以上の所得のある農家である。決して裕福ではないだろうが、食費、住居費など生活コストが安いことを考えれば、十分に生活できる所得だろう。

 さらに、1000万円以上の経営体数は12.7万だが、3000万円以上の経営体数は4.1万ある。この経営体は裕福と言っていいだろう。食料生産が足りなくて大変だという状況であれば、農産物価格は下がらない。現在、1000万円以上の売り上げのある経営体は廃業する理由がない。また、この段階に到達することを目指す、やる気のある農家も廃業する理由がない。

 政府が余計なことをしなければ、農地は10%の人々に集まり、農業の生産性は飛躍的に高まるだろう。

 実際にトレンドとしてそうなっている。2015年の農業センサスでは、売り上げ1000万円以上の経営体は9.1%しかいなかった。売り上げ1000万円以上の経営体は、2015年の9.1%から20年には11.8%に増えたのだ。