財政当局と財政学者は「財政赤字は経済成長を妨げる」と盛んに唱えている。だが、それは本当だろうか。3つのデータで解説する。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
財政赤字は
経済成長を妨げるのか
「財政赤字は経済成長を妨げる」と財政当局と財政学者は盛んに唱えているが、残念ながらそのような証拠はあまりないようだ。
このように主張する人々にとって、ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授の2011年の論文は、希望を与えるものだったろう(Carmen M. Reinhart and Kenneth S. Rogoff, “From Financial Crash to Debt Crisis”, American Economic Review. August 2011)。
両氏は、政府債務が対GDP比で90%を超えていた国の平均成長率はマイナス0.1%になったと主張していた。日本の政府粗債務の対GDP比は、2011年で219%だったから、これは日本の成長率が低下したことの大きな理由のように思えた。しかし、すぐに、この論文はデータに誤りがあると判明した。両教授は、誤りを認めた上で、債務が大きくなれば成長率が低下するという主要なメッセージは変わらないとした。
後述するように、両教授の主張は正しいようだが、劇的に成長率が下がるということではなくなった(この顛末は、『「国家は破綻する」著者らが誤り認める、米研究者らの指摘受け』ロイター2013年4月18日)。
さらに、元IMFのチーフエコノミスト、ピーターソン国際経済研究所のシニア・フェローのオリヴィエ・ブランシャール氏は、金利が低い状況で、民間需要が弱いときには、生産水準を維持できるように財政政策を用いるべきだと述べている(オリヴィエ・ブランシャール『21世紀の財政政策』244頁、日本経済新聞出版、2023年)。すなわち、現在の状況では、政府債務は大きな問題ではないと言っている。