裁判所写真はイメージです Photo:PIXTA

企業の株主対応を支援するアイ・アールジャパン(IRジャパン)を相手取り、投資会社のアジア開発キャピタルと、その子会社だったアジアインベストメントファンドが訴訟を起こしたことが10月10日、分かった。IRジャパンが関与した「マッチポンプ」疑惑の真相解明に向け、ついに法廷闘争が動き始めた。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

IRジャパン元副社長に有罪判決
次に動く「マッチポンプ」の法廷闘争

 10月5日、東京・霞が関の東京地方裁判所で、金融商品取引法違反(取引推奨)に問われた、ある被告人に懲役1年6月(執行猶予3年)の判決が下された。被告人の男はIRジャパンの元副社長、栗尾拓滋氏(57)だ。

 判決によれば、栗尾氏は2021年3月末頃、IRジャパンの持ち株会社であるIRジャパンホールディングス(IRJ HD)が21年3月期の売上高予想を14%下方修正する重要事実を把握。その下方修正が公表される前の4月、交際相手の女性2人に同社株の売却を勧めた。

 2人は計1万1200株を計約1億8000万円で売却。株価は下方修正の公表後に下落し、計約2300万円分の損失を回避した。

 世森ユキコ裁判長は「金融商品市場の公正性・健全性や、それらに対する投資家の信頼を害する悪質な犯行」と断罪。交際相手の損失回避という身勝手な動機に、「上場会社の役員という責任ある立場の自覚を欠いていた」と指摘した。

 一方で栗尾氏は既に副社長を辞任し、起訴内容も認めて反省の態度を示していることから執行猶予が相当とされた。栗尾氏個人のインサイダー取引事件を有罪とする司法判断が下された形だ。

 だがこの判決は、IRジャパンが関わる疑惑の一部にすぎない。

 実は栗尾氏の判決があった同じ日、東京地裁の民事部に、1件の訴状が提出された。原告は、投資ファンドのアジア開発キャピタル(ADC)と、その子会社だったアジアインベストメントファンド(AIF)。被告はIRジャパンである。

 それは、IRジャパンが関わるもう一つの不正、「マッチポンプ」を巡る法廷闘争の火ぶたが切られたことを意味する。大物弁護士が原告側に付いた、巨額訴訟の全貌を次ページで明らかにする。