インサイダー IRジャパンの凋落#3Photo:twinsterphoto/gettyimages

上方修正の連発により、2019年の年初から21年初め頃までに株価が10倍に膨らんだIRジャパン。だがこの1年間は、業績未達と不祥事により、10分の1に転落。急成長と凋落の裏で何があったのか。特集『インサイダー IRジャパンの凋落』(全7回)の#3は、関係者の証言により、「天国と地獄」の内幕ドキュメントを描く。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

IRジャパン急成長の裏にあった
苛烈なノルマ主義とメディア対策

 株主対応に問題を抱えた企業の“用心棒”として、無視できない存在となりつつあるアイ・アールジャパン(以下IRジャパン)が、東証1部上場を果たしたのは2018年9月のことだ。上場前を知る元社員は言う。

「ワンマン社長の中小企業のような雰囲気で、ファンドの名前を覚えたり、ROE(株主資本利益率)について講義を受けたりする若手向けの勉強会もあった。社員も楽しそうに仕事をしていた」

「ワンマン社長」とは無論、寺下史郎社長のことだ。持ち株会社のアイ・アールジャパンホールディングス(以下IRJHD)株の50%超を持つ“絶対的存在”だ。

 IRジャパンの前身は、ボストン・コンサルティング・グループ出身の鶴野史朗氏が1984年に設立。米ジョージソン・アンド・カンパニーと提携するなどして、日本に米国流のIR(投資家向け情報提供)を持ち込んだ。実質株主判明調査を開始した97年に、寺下氏は入社する。

 寺下氏は08年にIRジャパンのMBO(経営陣による買収)をし、過半数の株式を持つオーナーとなった。

 IRジャパンは長きにわたり、前期売り上げを数億円ほど更新する小幅な増収を繰り返してきたが、20年3月期は3度の上方修正の末に、前期比59%増の売り上げ76億円を達成した。

 20年11月には「JPX日経インデックス400」の構成銘柄に選ばれ、19年の年初は1000円台だった株価が、21年に入ると1万9000円台まで高騰。時価総額は3000億円台に到達した。証券代行業で先行する大手信託銀行幹部も「アクティビストありきのビジネスモデルで、われわれとは発想が全く違う」と舌を巻く急成長ぶりだった。

 だが、この1年でIRジャパンは“天国から地獄へ”と暗転する。

 22年3月期の売上高予想120億円に対して進捗が振るわず、株価は急落。今年6月には、当時副社長だった栗尾拓滋氏のインサイダー取引嫌疑で証券取引等監視委員会が強制調査に入ったことが発覚した。株価は再び1000円台に急落した。

 いったいIRジャパン内部で何が起きていたのか。取材を通して見えてきたのは、苛烈なノルマ主義と巧みなメディア対策だ。