空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。

【雲研究者が考察】アンパンマンは「花粉症」にかかっているかもしれない…その驚きの理由とは?花粉光環(写真:荒木健太郎)

ドラえもんと台風

 映画『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』(藤子・F・不二雄原作、東宝)には、台風の子どもである「フー子」が登場します。

 映画版とマンガ『ドラえもん』(藤子・F・不二雄著、てんとう虫コミックス)の原作版「台風のフー子」では設定が異なる部分がありますが、いずれも気象学的に興味深い描写があります。

 まず、フー子は暖かい空気を食べて育ちます。これは現実的な設定と描写です。実際、海から熱と水蒸気を供給されることで台風は発達します。

 映画版と原作版のクライマックスで、フー子は凶悪な台風に立ち向かって嵐を鎮めようとします。原作版では超大型の台風とぶつかりあって消滅、映画版では敵の台風の反時計回りの回転と逆向きの渦を起こして消滅すると描写されています。

「藤原の効果」

 現実の空では同じようなことが起こるでしょうか。台風や熱帯低気圧が接近した場合、それらが干渉して通常とは異なる進路をとる現象があり、これを提唱した気象学者・藤原咲平(一八八四―一九五〇)の名をとって「藤原の効果」と呼ばれています。

 気象庁は、藤原の効果を「二つ以上の台風が接近して存在する場合に、それらが互いの進路に影響を及ぼすこと」と定義しています。

 この結果、台風が相対的に低気圧性の回転運動をする場合があるのです。回転運動のためにぶつかりはしませんが、片方が弱まって取り込まれることはあります。

 実際、二〇二二年の台風第11号は、弱まった熱帯低気圧の雲を取り込み、より発達しました。

 この作品は、涙なくしては観られない感動作です。のび太が風を感じて「フー子はいつも僕のそばにいる」という台詞には、地球上での水が姿形を変えて循環していることも示唆しているように感じてしまいます。

アンパンマンと花粉

 このように、雲が出てくるとつい気象学者の視点で考察してしまうため、何度も見直して考察を終えてから、落ち着いて鑑賞することが多くあります。

 先日はアニメ『それいけ! アンパンマン』(やなせたかし原作、日本テレビ)の太陽が気になりました。「花粉光環」のような虹色がいつも出ているのです。

 雲もないのに光環が見えるのは、スギ花粉などの花粉光環しかあり得ません。アンパンマンたちは花粉症になっていないだろうか、と一人心配になってしまいました。

 作品を気象学的に考察するということは、その作品を普通とは異なる観点で楽しめるということです。マンガ『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴著、集英社)でも、気象に直結する名前の技が多く、その言葉の背景知識を持っていると技のシーンの見え方も変わってきます。

 気象は多くの作品で取り上げられているテーマなので、気象を知っておくと二度も三度も作品を楽しめて、いいことしかありません。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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