空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。

【説明できますか?】地球には重力があるのに、なぜ「雲」は空に浮かんでいるのかPhoto: Adobe Stock

雲の正体

 そもそも雲とは一体なんでしょうか。

 雲とは、「無数の水滴や氷の結晶が集まったもの」です。小さな水や氷の粒が集合体として空に浮かんで見えているのが雲なのです。

 光は波の性質を持っており、山や谷があります。一つの山から次の山までの長さを「波長」と呼びます。

 可視光線の波長は雲粒より小さいため、雲粒に当たると光の色に関係なく、四方八方に散らばります。これを「ミー散乱」といいます。

 散らばると様々な色の光が重なるため、雲は白く見えるのです。

 薄い雲は真っ白に見えますが、低い空の雲など多くの雲は底の部分が灰色になっています。これは、光が雲の中で散乱されすぎて、弱まってしまっているためです。

雲が浮かんでいる理由

 地球には重力があるため、重さのあるものは重力に引っ張られて落ちるはずですが、なぜ雲は空に浮かんでいるのでしょうか。

 それは、空には雲粒を持ち上げる上昇気流があるからです。典型的な雲粒の半径は、約〇・〇一ミリメートル程度と非常に小さく、髪の毛の太さの五分の一ほどの大きさです。

 目に見える雨粒が半径一ミリメートルほど、シャープペンシルの芯の四倍くらいですから、雲粒の小ささがわかります。

 落下する雲粒は重力と空気抵抗が釣りあっている状態で、一定の速さで落ちてきます。この一定の速度を「終端速度」といいます。典型的なサイズの雲粒の場合は、落下の終端速度が一秒あたり数ミリメートルから数センチメートルと非常に小さいのです。

 大気中では至るところで空気が乱れ、上昇気流が起きているため、気流と終端速度が釣りあっていると、落ちることができずに浮かんだままになるというわけです。これが、雲が空に浮かんでいる理由です。

雲と水の関係

 雲を作っているのは、水や氷の粒、つまり水です。大気中では、水が状態を変えて存在します。

【説明できますか?】地球には重力があるのに、なぜ「雲」は空に浮かんでいるのか水の状態の変化

 気体の水蒸気はエネルギーが高く、液体の水、固体の氷の順にエネルギーが低い状態になります。気体から液体に凝結する際にはエネルギーを低くしなければならず、必要のなくなったぶんのエネルギーが熱(潜熱)として外に放出されます。

 液体から固体、氷になるときも同様に潜熱が外に放出されます。ということは、雲ができているところは、同じ高度の周囲の空気に比べ、実は少しだけ温かいのです。

 発達した積乱雲の内部などは、凝結が盛んに起こっていますから、周囲に比べて温度が数度ほど高くなっています。これは台風の発達などに影響します。

 逆に、雪が融けて雨になったり、雨が蒸発したりするなど、固体から液体、液体から気体に変化すると、潜熱が吸収されて気温が下がります。通り雨のあとに少し肌寒くなるのがまさにこれです。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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